相手を動かすスピーチに欠かせない、「あの言葉」

良いスピーカーと、秀逸なスピーカーの大きな違いはなんでしょうか。

良いスピーカーは、観客から良い反応を引き出すことができます。しかし秀逸なスピーカーは、良い反応を引き出すのはもちろんのこと、観客を、次なる行動へと結びつけることができます。次なる行動とは、「買う」「次のミーティングアポを取る」「提案した内容を実践してみる」など、観客が会場を出た後になんらかの行動を確実に取るように促すことです。まさに相手を動かすことのできるスピーチです。

相手に伝わる、だけでなく、相手を動かすスピーチに仕上げるためには、どのようなコツがあるのでしょうか?

そのコツを一つ挙げるならば、最も説得力のある言葉を使い、相手の心を大きく揺さぶることです。

最も心を揺さぶる、説得力ある言葉とは?

アリストテレスは、「人が説得されるためには、エトス(倫理的アピール)、ロゴス(論理的アピール)、パトス(情緒的アピール)の3つがそろわなければならない」と言いました。

ビジネスプレゼンでよくみられるのは、エトスとロゴスはそろっているが、パトスが弱い、というケースです。

TEDトークやその他のインスピレーショナル・スピーチならパトスが必要でも、ビジネスの場で感情に訴えかけることはさほど必要ではない、と思われがちですが、それは大きな落とし穴です。「結果を出す」必要があるビジネスプレゼンこそ、相手の感情に響かせ、その心を揺さぶり、「そうだ! これがソリューションだ! やってみよう!」と感じてもらわなければ、相手は行動に移してくれません。

そこで相手の心を揺さぶり、説得力を最大化することができる言葉があります。

「Most people(ほとんどの人たち)」です。

なぜなら、人は、得たいモノ・自分が実現したいことと、現実または「望ましくない状態」とのギャップを見せられると、心が揺さぶられ、当然、望ましくない状態から脱出したい、と強く思うものだからです。多くの自己啓発本でも、「Most people」は〇〇をしていないから、このような状態である。だから、〇〇をすれば、あなたは、「Most people」から脱出でき成功につながる! という図式が使われています。

例えば、以下のようなストーリーを聞いたら、あなたはどう感じますか?

現状に納得がいかない場合、どうしたらよいのでしょうか。かけっこにたとえてみると、「位置について、よーい、ドン」の最後の「ドン」が、あなたの人生を大きく飛躍させる大事な一歩となるのです。

これはこれで、なるほど、と感じるかもしれませんが、自分がその「ドン」を踏み出していないという切迫感や焦燥感を感じるでしょうか……? 他人事のように感じませんか?

次に、同じストーリーを、「Most people(ほとんどの人たち)」を使って語ってみましょう。前のパターンと比べてみてください。

「Most people」は、「位置について、よーい……」 まではやるが、「ドン」までいかずに辞めてしまいます。そして現状に納得がいかないと悩んでいます。あなたは、その「Most people」の一人でしょうか……? 「位置について、よーい、だけの人生」を送る「Most people」から脱却したければ、「ドン」に踏み出す勇気を出さなければならないのです。その「ドン」の一歩が、あなたの人生を大きく飛躍させるのです。

「Most people」という表現を使って文章を組み直したことで、「他人事」ではなく、「自分事」として実感できるのではないでしょうか?

つまり、秀逸なスピーカーは、他人事を自分事として、また、一般論を相手の具体的な行動に置き変えて話をすることができるのです。

世界的に著名なインスピレーショナル・スピーカーであるZig Ziglarも、まさにこの「Most people」という言葉を常用して、多くの人々に影響力を与えてきました。観客は、自分も「Most people」になってしまうのはいやだ……何かしなければ!!という焦燥感を感じ、かつ、自分は「Most people」から脱出するのだ!というやる気を引き出され、その結果、行動へとつながっていくのです。

スピーカーは橋渡し役

秀逸なスピーカーは、人々が欲しくないモノ・こと(例えば、“標準的な人生で終わる”)と、人々が欲しいモノ・こと(例えば、“目的を持った人生を送って成功する”)との間のギャップを明示し、そこに橋を渡す役目を担います。

次のスピーチを行う前に、自分にこんな質問を問いかけてみましょう。

・「Most people(ほとんどの人たち)」がやっていることで、(あなたのスピーチの聴衆が)避けるべきことはなんだろうか。
・「Most people(ほとんどの人たち)」がやっていないことで、(あなたのスピーチの聴衆が)すべきことはなんだろうか。
・「Most people(ほとんどの人たち)」の考え、あり方で、考え直すべきことはなんだろうか。

「Most people」ではなくて、「Many people」でも同じ意味ではないか。と思われた方に、ここで英語学校では習うことのない、「感覚的」なコツを一つお伝えしましょう。ほとんどの人たち(!)は、「Many」という表現を使います。それは“ほとんどの人たち”が慣れ親しんだ表現だからです。だからこそ、「Most people」と表現することでインパクトが出るのです……!

投稿者プロフィール

リップシャッツ 信元 夏代
リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)
早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡米後、伊藤忠インターナショナルにて鉄鋼、紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーにて消費財マーケティング・事業プロセス改革などの業務に携わった後、2004年に、事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンス社を設立。
 2013年、2014年春季トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初の地区大会優勝2連覇を果たしている。この経験を受け、2014年9月にブレイクスルー・スピーキングを設立。グローバルに活躍したい日本人のためのグローバルパブリックスピーキングのE-learningプログラムを中心に、個人コーチングセッション、企業内研修なども行う。TEDxTalkスピーカー。