情報のエンターテインメント

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プレゼンは聞き手を「TALL」にするもの

そもそも、プレゼンが果たす役割とはなんでしょうか。

インターネットやモバイル技術など、コミュニケーション手段が多様に手に入る今日、情報伝達は容易にできます。なぜ、生身の人間が特定の時間に特定の場所にわざわざ行って、話を聞く必要があるのでしょうか。

筆者は日本人として唯一(2019年2月現在)、ワールドクラススピーキングにおいてスピーチコーチの認定を受けています。私の師匠、クレッグ・バレンタインは、「プレゼンは、聞き手をTALLにするものだ」と言います。

TALLとは、Think、Act、Learn、Laughの略、つまり、スピーチやプレゼンは、聞き手が何かを考え、行動し、学び、そして笑うためにある、という意味です。

一言でいうならば、「情報のエンターテインメント」です。自分が持っている価値ある情報を提供することで、相手の頭と心を動かすには、考えさせ、行動に導き、学びを引き出すと同時に、聞いていて楽しませるのが最大の目標です。

そうはいっても、プレゼンは仕事なのだから、そんな楽しいものではない、とおっしゃる方もいるかもしれませんね。

社員のプレゼン教育にも非常に熱心なアメリカのGE社では、社員にこうした考え方を浸透させています。

「Emotional first, rational second」(感情が先にきて、理性は2番目にくる)

人間とは、感情が先にあって、次に理性で判断する生き物なのです。ビジネスではつい、論理や事実などを前面に押し出し、理性に偏った訴求をしがちです。しかし頭と心の両方が動かなければ、聞き手はあなたのプレゼンを聞いても、どこか完全に納得できていない感覚に陥ることでしょう。情報提供だけでは不十分なのです。

プレゼンとは、聞き手の頭も心も動く「情報のエンターテインメント」を「プレゼント」することなのです。

ストーリーの基本

エンターテインメント、といっても、何も歌ってみせたり踊ってみせたりするわけではありません。コメディアンになる必要もありません。

聞き手の心を揺り動かし、ひきつけ、彼らとつながること。それこそが、「エンターテインメント」です。歌手は歌でエンターテインメントを、役者や芝居でエンターテインメントを、コメディアンはお笑いでエンターテインメントを提供しますが、我々スピーカー(またはプレゼンター)は、「情報」でエンターテインメントするのです。

では情報をどのようにエンターテインメントに仕立てあげるのか? その最大のコツを一つだけ挙げるなら、それは「ストーリー作り」です。

ストーリー、と聞くと、「昔々あるところに……」というイメージを思い出すかもしれません。

ここでは、ビジネスプレゼンにおける「ストーリー」を、あえて「コーポレートストーリー」と定義してみましょう。ビジネスの場では、「事例紹介」や「ケーススタディー」は頻繁に登場しますが、「ストーリー」、ましてや「コーポレートストーリー」が語られることは、まだまだ少ないのではないでしょうか。

ストーリーもコーポレートストーリーも、基本は同じなのですが、コーポレートストーリーには、ストーリーでは深掘りされていない要素が3つあります。

その3つの要素についてお話しする前に、ストーリーの基本について説明しましょう。

いずれの場合も、3幕構成です。

まず、第1幕で、主な登場人物が出てきて、ストーリーの状況設定が行われます。

次の第2幕では、その状況になんらかの危機が訪れます。登場人物には、様々な困難が降りかかるものの、果敢に立ち向かい、危機的状況に変化をもたらします。

最後の第3幕では、その変化の結果によって獲得できた新たな状況が描写されます。

では、昔話の桃太郎のストーリーを思い出してみてください。

第1幕では、おじいさんとおばあさんが登場します。二人とも働き者で心優しい子供のいないおじいさんとおばあさんの元へ、ある時大きな桃がやってきて、中から元気な赤ちゃんが飛び出します。主役の桃太郎の登場です。桃太郎はすくすくと立派な男の子に育ち、平和で幸せな状況が設定されます。それぞれの登場人物のキャラクター設定もしっかりと第1幕で描かれます。

クライマックスの第2幕では、おじいさんおばあさんや村の人々が、鬼たちの暴行にとても困っている、という危機的状況が発生します。そこで桃太郎は、きびだんごを使って犬・さる・きじを仲間に加えて、鬼ヶ島に鬼退治に出かけ、強い鬼たちを退治します。

第3幕では、村にまた平和が戻り、ハッピーエンドとなった新たな状況が語られます。

事例紹介 < ストーリー < コーポレートストーリー

このような一般的なストーリーの流れに沿って、ビジネスの事例を当てはめてみましょう。大豆製品を扱う、地方の中小企業M社のストーリーと仮定しましょう。

よくありがちな、「事例紹介」として語る例を挙げてみましょう。

<M社のケーススタディー>

背景:大豆商品を扱う中小企業M社が開発した新商品に類似商品が現れ、この類似商品を開発販売した大手N社から、市場シェアをどんどん取られてしまう状況に陥った。

課題:大手N社のブランド認知度や幅広い販路に負けず、自社開発商品の売り上げを確実に伸ばし、市場シェアを回復することが喫緊の課題である。

ソリューション:M社の特許技術の特徴を、各顧客にも理解してもらえるよう、中小企業ならではの草の根営業活動を行う。また、特許侵害の訴訟を起こすことで、法的措置という側面からもN社と戦う。

結果:N社が自発的に商品を撤退。M社の市場シェア回復。

この事例紹介を聞いて心がひかれる!という方は……あまりいらっしゃらないのではないでしょうか。情報が単なる情報として伝えられているだけで、TALL、つまり「情報のエンターテインメント」になっていません。

次に、この事例を、一般的なストーリーとして仕上げたバージョンをお見せしましょう。前述の桃太郎方式です。

<M社のケーススタディー>

第1幕:M社は、若きアイデアマン社長・M氏が率いる、新商品開発が得意な大豆製品メーカーで、市場でも一定のシェアを保っていました。ある時、地場の企業とも協力しあい、卓上でたった10分で自家製豆腐が簡単に出来上がってしまう、焼き物の器と、材料となる国産大豆の豆乳と、にがりのセットを開発し、市場から好評を得ていました。協力企業の人々からも、地域経済に貢献していると、大きな賛同を得ていました。

第2幕:ところが、M社の新商品の売れ行きを見ていた大手食品企業のN社が、類似商品をあっという間に開発し、販売を始めたのです。大手企業であるN社はブランド認知度もM社の比ではありません。M社は特許侵害として訴訟を起こすと同時に、自社商品にしかなしえない特徴を顧客に地道に訴えかけながら関係強化を図り、顧客離れを回避することができました。

第3幕:その結果、N社は同商品を撤退させることとなり、M社は着実に国内外で市場シェアを伸ばしていきました。

さて、このストーリーを聞いて、皆さんは何を感じたでしょうか。そしてどんな学びがあったでしょうか。そしてこのストーリーを聞いた後、何かをする気になったでしょうか?

「事例紹介」よりは情報のエンターテインメント性は上がっていて、はるかに興味を持って聞きやすい形にはなりました。それでも、「へえ、そうだったんだ」で終わってしまいませんでしたか?

そうなのです。ストーリーだけでは深掘りしきれない「コーポレートストーリーに必要な3つの要素」とは、まさにこれなのです。

次回から、この3つの要素について順に説明していきます。

投稿者プロフィール

リップシャッツ 信元 夏代
リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)
早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡米後、伊藤忠インターナショナルにて鉄鋼、紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーにて消費財マーケティング・事業プロセス改革などの業務に携わった後、2004年に、事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンス社を設立。
 2013年、2014年春季トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初の地区大会優勝2連覇を果たしている。この経験を受け、2014年9月にブレイクスルー・スピーキングを設立。グローバルに活躍したい日本人のためのグローバルパブリックスピーキングのE-learningプログラムを中心に、個人コーチングセッション、企業内研修なども行う。TEDxTalkスピーカー。