聞き手をひきつけるストーリー作りのコツ

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人は「コントラスト」に心が揺れる

ここまで、コーポレートストーリーの作り方をひと通りご説明しました。さらに聞き手を引きつけるストーリー作りのコツとは、なんでしょうか。

ビジネスにおいて、商談であれ、商品デモであれ、社内ミーティングであれ、伝えたいメッセージを受け入れてもらえるよう、相手を説得する必要があります。しかし人が説得されるためには、頭で情報を理解しただけでは不十分で、心が揺れ動くことが必要です。つまり人は心が揺れると共感しやすいものなのです。

前回まででご紹介した、よくあるパターンの「事例紹介」では、事実が事実として情報提供されているだけですが、ストーリーになると、登場人物が出てきて彼らがセリフをしゃべり、彼らの葛藤や変化、学びなどが見えます。そういった人間ドラマが見えると、人は、「自分もそうだ! あるある! うちの会社も似たようなことがある!」と、身近に感じることができるわけです。

では、その「心が揺れる」ストーリーをどう作るか。その大切な要素として「コントラスト」があります。

人が最もストーリーに引き込まれるのは、ドキドキしたりハラハラする心の動きを感じられるからです。安泰だった状況に、危機や困難が訪れ、解決しそうになったら一難去ってまた一難と、山あり谷ありのストーリーが繰り広げられます。つまり人は、コントラストのあるストーリーに引き込まれるのです。

例えば、皆さんの好きなエンターテインメント映画を思い浮かべてみてください。

『スター・ウォーズ』でも『ロード・オブ・ザ・リング』でも『ハリー・ポッター』でも、途中に「ドキドキハラハラ」があって、主人公と一緒に困難をかいくぐり、手に汗を握る体験をするからこそ、最後のハッピーエンドでスカッとしたのではないでしょうか。

こうした人気映画は、第2回コラムでお伝えした通り、3幕構造になっており、まずは第1幕で、主な登場人物が出てきて、ストーリーの状況設定が行われ、次の第2幕では、その状況に何らかの危機が訪れて、主役の登場人物は、様々な困難が降りかかりながらも、果敢に立ち向かい、危機的状況に変化をもたらします。そして最後の第3幕では、その変化の結果得られた新たな状況が描写されます。

よく「サスペンスに満ちたドラマ」などといいますが、この「サスペンス」とは、観客に不安や緊張の心理を与え、物語の結末を知ることへの希求を抱かせ、心をつなぎとめる手法のことなのです。

ストーリーは、「モールエスカレーター」方式で

もし、映画『タイタニック』で、タイタニック号が氷山にぶつかってすぐに沈没していたら、映画がすぐに終わってしまい、聞き手の興味は持続しないことでしょう。これはいわばエレベーターのように、目的地まで急上昇、あるいは急降下するようなストーリー作りです。

この「エレベーター方式」は、聞き手を最後までひきつけ続け、動かすところまでもっていくことを目的とするプレゼンやスピーチでは、避けたいものです。

逆にタイタニック号が氷山にぶつかった後に、いつまでたっても足元が浸水しているだけの状態が続いていたら、映画の観客はすぐに見飽きてしまいます。いわば「歩く歩道」のように、どこまでいっても平らな進行だからです。

この「歩く歩道」方式もプレゼンやスピーチでは避けたいものです。

ではコントラストを出すためにどういう上がり方がいいのか。それは、「モールエスカレーター」方式です。

ショッピングモールのエスカレーターを使った昇り方を想定してみましょう。

モールエスカレーターで2階へ昇ると周りにショップがあります。そのショップをぐるりと見て回ってから、また次のエスカレーターで3階に上がるという作りになっています。首都圏の方なら表参道ヒルズを思い起こすと、イメージを浮かべやすいでしょう。デパートのエスカレーターでも見かけるかもしれません。

映画『タイタニック』も、この「モールエスカレーター」形式で進んでいきます。

氷山にぶつかりボイラールームに浸水した(上昇)、でも船の上層階にいる人たちは全く気付かず優雅に過ごしている(安定)、やがて2階も浸水し始める(上昇)、でもキャプテンは楽観視(安定)、手錠をかけられていた主人公ジャックの部屋にも浸水が始まる(上昇)というように「コントラスト」が次々と現れるからこそ、緊張感が徐々に高まり、興味が長く持続します。

この「モールエスカレーター」方式で徐々に昇っているものは、なんだと思いますか? それは観客が感じる興奮とサスペンスなのです。それが徐々に高まっていくことで、興味は長く持続し、最終的に解決した時には心から安心し、共感し、そのストーリーの当事者かのようにその話を受け入れられるのです。

人間は、プレゼンの初期段階で感情に訴えかけ、心が動くと、「聴く心と耳」が開いて、前向きに聞いてみる気になります。心の扉を開かせて、そこに論理的な理由を持ってくると、なるほどと納得します。ビジネス上のコーポレートストーリーの際でも、「頭」と「心」を交互にアピールしていくと、うまくコントラストを出すことができます。

例えば次のような構成です:

「メッセージをまず主張する」(「頭」にアピール)

「その根拠となる一つ目のポイントをストーリーで説得していく」(「心」にアピール)

「そしてそのストーリーがいかに、伝えたいメッセージをサポートしているかを示す」(「頭」にアピール)

「さらに2つ目のポイントを示す」(「頭」にアピール)

「2つ目のポイントを説明するストーリーで語る」(「心」にアピール)

「3つ目のポイント……」

と、このようにコントラストのあるストーリーを効果的に使い、心を揺さぶりながらも頭にも訴えかける構造が出来上がります。

投稿者プロフィール

リップシャッツ 信元 夏代
リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)
早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡米後、伊藤忠インターナショナルにて鉄鋼、紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーにて消費財マーケティング・事業プロセス改革などの業務に携わった後、2004年に、事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンス社を設立。
 2013年、2014年春季トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初の地区大会優勝2連覇を果たしている。この経験を受け、2014年9月にブレイクスルー・スピーキングを設立。グローバルに活躍したい日本人のためのグローバルパブリックスピーキングのE-learningプログラムを中心に、個人コーチングセッション、企業内研修なども行う。TEDxTalkスピーカー。