ストーリーは聞き手の心をひらく鍵

ビジネスプレゼンにストーリーを組み込むことで、どれだけ差が出るものなのでしょうか。

実際に、ストーリーを組み入れることで、一度断られた3億円の投資を獲得できたケースを、ご紹介しましょう。

クライアントのO氏は実業家で、日本に様々なロシア製品を輸出入している商社を経営していました。取扱商品は実に多岐にわたり、ロシアの食品やお茶、伝統産業品、中古自動車に至るまで幅広いものでした。この会社は日本では事業がどんどん成長しており、O氏は、アメリカ市場へとさらに事業拡大すべく、物流、ITシステムなどに投資する必要があり、投資家を募っていたところでした。

ところがベンチャーキャピタル数社にプレゼンをしたものの、良い返事はもらえず、資金調達ができていませんでした。そこで弊社の戦略コンサルティングにご相談があったのです。

まず聞き手視点でメッセージを考える

「自社のアピールも経験も豊富に盛り込んだのに、なぜか反応が薄い。どうすればいいのか」

こう話すOさんに、彼のプレゼンを見せていただきました。すると、下記のような構成になっていました。

「私はこれまで20年間この事業を行ってきて、経験値が高く、経営者としての手腕にも自信がある」

「私自身、そしてスタッフ全員、中古車事業、食品事業、伝統産業品事業、そして調達、物流、貿易業務すべての分野に精通しており、専門知識が幅広い」

「私は経験と知識、情熱があるので、将来の事業の見通しは明るい」

同社が展開する商品サービスの詳細や特徴、物流拠点の広さ、そしてこれまでの実績、O氏ほか主要メンバーのプロフィールなどが盛り込まれていました。

ここで皆さんは、大きな欠点にお気づきでしょうか。

それは、このプレゼンが、「自分視点」になっている、という点です。

自分自身の経験や手腕、同社のアピールポイントをふんだんに盛り込んでおり、なかなかよさそうに聞こえるかもしれません。

しかし考えてみてください。聞き手は誰でしょうか。

多額の資金を投資することを検討する投資家です。そしてこのプレゼンは「投資を獲得すること」が目的です。

そのためには、いかに自社がすばらしいかと「宣伝」するのではなく、「聞き手にとっての利益は何か」を示さなくてはなりません。「聞き手視点」でメッセージを構成することが必要なのです。

そこで、「私の事業に投資すると、投資家のあなたはどのような利益があるのか」という聞き手視点をもとにプレゼンのメッセージを検討しました。

「ニッチなニーズを埋める物品調達の専門家(19字) 」として、「他社では到達しえない市場の隙間から収益を確実に上げ、高いROIをお約束します」というメッセージに沿って、投資家視点から見た説得材料を揃えていきました。

聞き手視点のメッセージと目的に沿ったストーリーを探し当てる

さらに、ビジネスプレゼンにありがちなもう一つの欠点がありました。

それは、プレゼンの中にストーリーが組み込まれていなかったことです。たとえ相手が、厳しい目で事業を判断する投資家であっても、生身の人間です。

アリストテレスは、人が説得されるには、「エトス(倫理アピール)」、「ロゴス(論理アピール)」、「パトス(情緒アピール)」の3つが揃うことが必要だ、と説きました。ただしこの3つのバランスは場合によって異なります。

投資家が、投資対象を判断する際には非常にロゴス寄りの観点からプレゼンを聞くことでしょう。

しかし厳しく判断する相手だからこそ、しっかりと情緒アピールも怠らず、彼らの「聴く心」を開き、ポジティブでオープンマインドにプレゼンを受け入れてもらう必要があります。そのためには、ストーリーの力が欠かせません。

では、どんなストーリーを組み込めばよいのか。聞き手視点を前提に、このプレゼンの目的を再確認しながらストーリーを選んでいく必要があります。

O氏の場合、起業当時の苦労話や、ロシアから調達してくる希少品にまつわる歴史、会社が倒産しそうになった時にどう乗り切ったか、などなど、実にたくさんのストーリーが出てきました。

「資金を投ずる投資家」という聞き手に対し、「彼らから投資を獲得すること」を目的として組み立てるプレゼンです。そしてワンビッグメッセージは、「ニッチなニーズを埋める物品調達の専門家(19字) 」です。

O氏に様々な角度から質問をしながら、この聞き手と目的に合ったストーリーを掘り起こしていくと、「他社にはなしえない、自社ならではのネットワークで希少品を開拓するノウハウと、それを確実に商流に乗せるユニークなプロセスを開発するまでの秘話」を探り当てることができました。

このストーリーをもって、「「ニッチなニーズを埋める物品調達の専門家(19字) 」として、他社では到達しえない市場の隙間から収益を確実に上げ、高いROIをお約束する」というメッセージにつなげ、投資家から、「資金を投ずるに値する事業なのだろう、もっと話を聞かせてくれ」というリクエストも引き出すことができました。その結果、見事、3億円の投資を獲得することができたのです。

ストーリーは、聞き手の心を開く鍵のようなものです。

聞き手の心が開いたら、あなたのプレゼンの成功は、すぐそこにあります。ぜひ、ビジネスプレゼンにもストーリーを活用していきましょう。

投稿者プロフィール

リップシャッツ 信元 夏代
リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)
早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡米後、伊藤忠インターナショナルにて鉄鋼、紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーにて消費財マーケティング・事業プロセス改革などの業務に携わった後、2004年に、事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンス社を設立。
 2013年、2014年春季トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初の地区大会優勝2連覇を果たしている。この経験を受け、2014年9月にブレイクスルー・スピーキングを設立。グローバルに活躍したい日本人のためのグローバルパブリックスピーキングのE-learningプログラムを中心に、個人コーチングセッション、企業内研修なども行う。TEDxTalkスピーカー。