「オレオレスピーチ」から脱却せよ

つい先日まで、7月5日に出版された書籍『20字に削ぎ落とせ ワンビッグメッセージで相手を動かす』の日本全国出版記念ツアーを行っていました。

その出版記念イベントに参加してくださった方の中に、政治家のMさんがいらっしゃいました。イベント終了後、とても参考になった、ぜひとも実践したい!と興奮気味にお話ししてくださるMさんから、一つ質問を頂きました。

「政治家の演説はどうしても、“オレオレスピーチ”が基本なんです。自分の実績を有権者にアピールしないといけません。どうしたらいいのでしょうか」

私は常々、「オレオレスピーチから脱却せよ!」とお話ししているものの、政治家の演説に特化して考えたことがなかったため、このご質問に気の利いた回答ができませんでした。

政治家でなくとも、「オレオレスピーチ」になってしまうケースはよく見られます。皆さんも、必ず一度は、自分が気づかぬうちに「オレオレスピーチ」をしてしまっていたことがあるはずです。

今回は、なぜ「オレオレスピーチ」から脱却すべきなのか、それをどうやって脱却するのか、お話ししていきたいと思います。

まず、「オレオレスピーチ」とは何なのでしょうか?

オレオレスピーチとは?

プレゼンやスピーチには、話し手が伝えたいことを主張するというイメージがあります。

「今日、私が皆さんにお話ししたいことは……」

「私の経験では……」

「私は……と考えています」

「我が社の実績は……」

「我々はこのようなミッションを掲げています……」

こうしたセリフを頻繁に聞きますよね? 私が、我が社が、我々が、自分のチームが……オレが、オレが……。

実は、自分は決して「オレオレ」と言っているつもりではないのに、気づかないうちに「自分視点」で話してしまっているケースがほとんどなのです。これが、私が「オレオレスピーチ」と呼ぶ「自分視点のスピーチ」です。このような「オレオレスピーチ」は、自分が伝えたい内容が前面にきてしまい、聞き手の興味や問題意識などは後回しになってしまう傾向にあります。

一方で、よい語り手とは、「聞き手」視点で話ができる人であって「オレが主役」ではありません。

「聞き手視点」で考えてみれば、主役は聞き手。聞き手は、語り手がいかに偉いかという話ではなく、「自分の役にたつ」「自分のためになる」あるいは「自分が共感できる」話を聞きたいのです。

つまり、聞き手を主役にすると、「他人事」から「自分事」として捉えることができるということです。

「今日私が皆さんにお話ししたいことは……」
→「皆さんに今日お持ち帰りいただくポイントは……」

「私の経験では……」
→「皆さんにも私の経験がこのように生かせます……」

「私は……と考えています」
→「皆さんも……と考えてみることから始めてみませんか」

「我が社の実績は……」
→「皆さんは安心して我が社にご依頼ください」

「我々はこのようなミッションを掲げています……」
→「皆さんのゴール実現をお手伝いいたします……」

このように、聞き手を主役にして同じメッセージを言い換えてみただけでも、聞き手が受ける印象はかなり、「他人事」から「自分事」に変わりませんか?

「聞き手視点」を持ってメッセージを構築するだけでも十分に効果があります。しかしながら、スピーチの達人と言われる人たちは、単に「聞き手視点」を持つだけでなく、さらに巧みな方法で、自分視点から聞き手視点へとメッセージを転換しています。

まさしく、ストーリーの活用です。

失敗談ストーリーに乗せて自分視点を聞き手視点に転換

つい最近、滝川クリステルさんとの結婚会見で話題をさらった小泉進次郎氏。日本の政治家の中でもスピーチの達人と言われていますが、その小泉氏はある講演会の冒頭でこう切り出したそうです。

「民主党へ政権が交代した選挙で、初当選した時のことです。当時、世襲した政治家への風当たりが相当強く、自民党への失望感とも重なって、演説しても話を聞いてもらえなかった。自分の名刺を破られ、演説する横で太鼓を叩かれ、わざと足も踏まれました」

小泉氏が昔を振り返り、こんな苦労話を話し始めると、聴衆は瞬時に話に引き込まれたそうです。なぜなら、自分が犯した失敗談やうまくいかなかった体験談を語ることで、聴衆自身も経験がある、「彼も自分と似たような経験があったのか」と、「あるある」を引き出すことができ、話し手と聞き手との距離が縮まり、共感を引き出すことができるのです。

聴衆に共感してもらい、関心をひきつけるには、「自分視点」で成功をアピールするのではなく、「聞き手視点」で、自身の失敗談や経験談を基にした「ストーリー」が何より効果的です。

全体と個に「聞き手視点」を振り分ける、巧みな「ストーリー」使い

「街頭演説が魂の叫びだ」と広く共感を得た山本太郎氏も、聞き手視点のストーリー使いの達人です。

圧倒的な熱量で押している節もあるものの、山本氏も巧みに使っているのは、小泉氏と同様、やはり「聞き手視点」の「ストーリー」です。しかし山本氏のストーリー使いは小泉氏とは少々異なるアプローチです。

小泉氏は、自分自身の失敗談や経験談などを、コアなストーリーとして語っていましたが、山本氏は、れいわ新選組の仲間たちや、これまで触れ合ってきた一般市民の「ミニストーリー」をたくさん集めています。聴衆の全員が、必ず、それらのいずれかに状況が当てはまる、あるいは似通っている点を見つけることができ、必ず共感できるように工夫されています。

例えば、こんなミニストーリーです。

「多額の奨学金を借金させられている学生たち」

「7人に1人が貧困という状態にさらさられている子供たちとその家族」

「3人に1人が貧困と言われる、一人暮らしの女性たち」

「貯蓄ゼロが60%を超えている20代の若者たち」

「保険証がなくて病院にも行けない人たち」

「自分の知的向上のために本を買いたいのに買えない人たち」

「派遣切りになったシングルマザー」

「かつては銀行員でエリート街道を歩んでいたのに、コンビニ親会社に搾取され続けたコンビニオーナー」

このようなたくさんのミニストーリーを次々と語るピンポイント作戦で、聴衆は必ず共感できるポイントを作っていきます。同時に、聴衆全体を包括的に取り込んでいくアプローチも合わせ技で使っています。

「あなたは何ができるの? あなたは国の役にたってる? あなたは会社の役にたってる? あなたは家の役にたってる?」

「今、企業利益は過去最高レベル。でもバブル時代以上に自分の収入が上がってる方はいますか?(挙手を求める)誰もいない!」

「働くあなたは、会社のコストです。1年後の自分をイメージできますか? クビになってるかもしれない。そんな状況で、あなたの夢を語ってください。無理ですよね」

一般市民に具体的に焦点を当てた「ミニストーリー」をたくさん例に挙げて、個人レベルの「聞き手視点」に訴求しながら、聞き手全員に問いかけていくことで、「聞き手視点」をさらに強化しています。時には全体に、時には個に、訴えかけていく話法には、山本氏の巧みな戦略がうかがえます。

心と心をつなぐ

冒頭の、出版記念イベントに参加してくださった政治家Mさんの質問に戻りましょう。

政治家は票集めのために、「オレオレスピーチ」を通して自分の実績を存分にアピールすべきなのか。答えはノーです。

特に選挙演説の場合は、たまたま通りがかった人が演説を部分的に聞いて、その人の足を止められるか、そしていかに内容を興味深く聞いてもらえるかが鍵になるでしょう。

これは選挙演説でなくとも、ビジネスプレゼンでも同様のことが言えます。相手の心をいかに捉え、放さずに最後まで惹きつけられるのか。

ひと言でいうならば、スピーチのどの部分を切り取っても、聞き手にとって「自分事」だと感じさせる、ということです。

人は「自分事」だと感じられると、足を止め、耳を開き、心を開いて聞いてくれます。

聞き手の「他人事」から「自分事」に変えることが、まさに、「聞き手視点」であり、自分の身近なことなのだと捉えられるような「ストーリー」なのです。

ぜひ、「聞き手視点のストーリー」を活用し、自分の主義主張を並べ立てる「オレオレスピーチ」から脱却していきましょう。聞き手の心が惹きつけられるだけでなく、話し手のあなた自身の心も彼らとつながった、と、感じることでしょう。心がつながってこそ、スピーチやプレゼンをする意義があるのです。

投稿者プロフィール

リップシャッツ 信元 夏代
リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)
早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡米後、伊藤忠インターナショナルにて鉄鋼、紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーにて消費財マーケティング・事業プロセス改革などの業務に携わった後、2004年に、事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンス社を設立。
 2013年、2014年春季トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初の地区大会優勝2連覇を果たしている。この経験を受け、2014年9月にブレイクスルー・スピーキングを設立。グローバルに活躍したい日本人のためのグローバルパブリックスピーキングのE-learningプログラムを中心に、個人コーチングセッション、企業内研修なども行う。TEDxTalkスピーカー。