米大統領選挙、メラニア・トランプのスピーチは成功だったのか

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日本では東京都知事選キャンペーンが繰り広げられていましたが、アメリカでは、次期大統領選のキャンペーン真っただ中です。

共和党大会では、皆さんもご存じの通り、メラニア・トランプのスピーチが、2008年のミシェル・オバマのスピーチから一部盗用されていた、として大きな物議をかもしました。

メラニア・トランプは英語のノンネイティブですので、「文化や言葉の壁を越えて心を動かすグローバル・パブリックスピーキング」をコンセプトにしているブレイクスルー・スピーキング™では、彼女がどんなスピーチをするのか、は非常に関心を寄せていました。

生放送で彼女のスピーチを聞いていた時には、ノンネイティブ、かつ、これまで「しゃべり」が仕事の一部ではなかった彼女の堂々とした立ち居振る舞いから、間のとり方、滑舌、声のトーンや抑揚まで、相当練習したのだな、と感心していました。そして演説直後には、彼女のスピーチは素晴らしかった、成功だ、との評価も多く聞かれました。しかしながら、スピーチを盗用していたかどうか?という議論は置いておくとして、彼女のスピーチの構成面を見てみると、重要な課題点がいくつも見られました。

オープニングで分かるスピーチの勝敗

スピーチには、「7秒-30秒ルール」というのがあります。聞き手は最初の7秒で、話し手の印象を決め、30秒で、聞くに値する話かどうかを判断する、というものです。筆者はこれまで多くのスピーチを聞いていますが、最初の30秒を聴いただけで、そのスピーチの勝敗がおおよそ予測できます。

ではまず、メラニア・トランプのオープニングを分析してみましょう。

【メラニア・トランプ】
“You have all been very kind to Donald and me to our entire family. It’s a very nice welcome and we are excited to be with you at this historic convention. I’m so proud of your choice for the president of the United States, my husband, Donald J. Trump.”

明らかな失敗パターンです。日本人もよくやってしまうスピーチの落とし穴の1つでもあるのが「非礼なる礼儀」です。つまり、最初に主催者にお礼を述べたり、自分の感謝の念を伝えたりして「礼儀正しさ」を全面に押し出すつもりが、実は「非礼」になっているのです。

聞き手にとっては、話し手が誰に感謝しようと直接関係のないことです。社交辞令はほどほどにして、本題に入ってほしいと感じるものです。メラニア・トランプのスピーチの冒頭は、まさにこの「非礼なる礼儀」にあたります。

さらに、もう1つのスピーチの落とし穴があります。「スピーチの主役は話し手ではなく、聞き手である」ということです。聞き手が何を聞きたいのか、何をしてほしいのか、はお構いなしに、自己アピールや自分視点のメッセージを一方的に伝えても聞き手の心には響きません。ここでもメラニア・トランプは失敗しています。「非礼なる礼儀」に加えてMe、I、I、が続き、いわゆる「オレオレ」スピーチになってしまっているのです。これでは冒頭から聞き手の心はつかむことはできません。

では、聞き手の心をつかみ、勝てるオープニングとはどのようなものなのでしょうか。冒頭からインパクトをつけるためには、最初の30秒で注目をひき、かつスピーチの中で伝えたいメッセージにつながる内容である必要があり、次の人たちの演説は、まさにそれを体現していました。

【ミシェル・オバマ】
“It’s hard to believe it has been 8 years since I came to the convention to talk with you about why I thought my husband should be president. Remember how I told you about his character and conviction. His decency and his grace. The traits that we’ve seen everyday that he served our country at the white house.”

ミッシェル・オバマのスピーチは、ブレイクスルー・スピーキング™でお伝えしている「7秒で印象をがらりと変える7つのオープニング手法」のうち、「コールバック」という手法を使っています。これは、過去の出来事に聞き手を連れていくという手法で、ミシェル・オバマのスピーチでは、8年前、民主党大会で彼女が演説した時の場面を振り返っています。

そしてちょうど30秒で、「8年前に語った主人の姿勢は大統領として活動した8年間ずっと毎日変わらない」ことをしっかりと伝えており、この30秒を聴いただけで、その先のスピーチでも恐らく、「大統領としての姿勢」にフォーカスしたメッセージが出されるのだろう、と推察できます。

【コーリー・ブッカ―】
“240 years ago, our 4 fathers gathered in this very city, and declared before the world we will be free an independent nation. Today, we gather again in this city, to reaffirm our values before our nations and the whole world.”

こちらも「コールバック」手法が使われていますが、コーリー・ブッカ―の場合は、非常に効果的にタイムトラベルをしています。

まず240年前、アメリカが独立した時の価値観に触れ、その後、240年後の今現在、同じ場所で、同じ価値観を再確認している、と現在に聞き手を連れ戻していることで、観衆全員の意識を、「素晴らしい国、アメリカ」への再門出に向けて一気に統一しています。非常にパワフル、かつ計算しつくされたオープニングです。

【ビル・クリントン】
“In the spring of 1971, I met a girl.”

ビル・クリントン前大統領のスピーチは、パーソナルストーリーに溢れた素晴らしいスピーチでした。本来の人となりが見えにくいとされていたヒラリー・クリントン像に、「身近な人間像」を重ねることに大きく貢献したスピーチといえましょう。オープニングでも、「7つのオープニング手法」のうち、ストーリーで始める、という手法を使っています。さらに語順に注目してください。

人は、一番最後に聞いた情報が重要なものだと受け取る、といわれています。これをリーセンシー効果、と呼びます。もし、“I met a girl in the spring of 1971”と始まったらどうだったでしょう。書き言葉ではこちらの方が自然かもしれません。しかし耳で聞いている場合、最後の情報、つまり、1971年という情報が重要だと受け取られるため、「どこの女の子の話か分からないが、1971年という年に何かが起こったのだ。1971年にどうしたんだろう?」と考えます。

しかしビル・クリントンのスピーチは違いました。“In the spring of 1971, I met a girl.”という語順にすることで、「girl」が際立ちます。つまり、語順を変えただけで、その「girl」はヒラリーのことであり、今大統領候補として皆が知っている「ヒラリー大統領候補」ではなく、単なるひとりの女の子であったヒラリーの45年前の姿が明らかにされる!と期待感が一気に高まります。たった9語の語順を変えるだけで、こんなにインパクトが変わるのです。実際、この9語の直後に観衆から大歓声が沸き起こりました。

【メリル・ストリープ】

女優、メリル・ストリープのスピーチも、短いスピーチながらも明確かつパワフルなメッセージでした。

「7つのオープニング手法」のうち、「パワフルな質問で始める」、という手法を使っています。「どんなことでも、女性初、になるにはどれだけのことなの?!」と問いかけるだけで、初の女性アメリカ大統領という歴史的瞬間を待ち望む聴衆の意識を統一させます。

さらにクロージングでは、「She may be the first, but won’t be the last」で締めくくることで、広がる可能性を脳裏に焼き付け、新たな未来の幕開けへの期待感を最高潮に高めて終了しています。

One BIG Messageの重要性

さらにブレイクスルー・スピーキング™で強調しているのは、伝えたいメッセージは1つに絞り込むことです。それを「One BIG Message」と呼んでいます。もちろん、そのOne BIG Messageをサポートするためにいくつかのポイントを挙げるわけですが、秀逸なスピーチは、全体を通して、一貫した1つのメッセージが伝わってくるものです。

例えばミッシェル・オバマのスピーチからは、「次世代の子供たちによりよい未来を残せる大統領。それはヒラリーしかいない」というメッセージがはっきり伝わってきます。ヒラリー・クリントンのスピーチからも、1時間という長いスピーチにもかかわらず、一貫して「建国の父たちと同様、「共に」力を合わせることで素晴らしいこの国はもっと素晴らしくなる」というメッセージが伝わりました。

一方でメラニア・トランプのスピーチからは、「(ドナルド・トランプは)この国を愛している」「決してあきらめない信頼できる人物である」「勝ち方を知っている」「自分がファーストレディになったら子供と女性に貢献する」「ドナルドと自分が大切にしている価値観をホワイトハウスに持っていく」など、メッセージが散在しており、終わった後に、彼女の話を一言でまとめようとするとまとまりきれません。

キーワードやフレーズがメッセージを焼き付ける

長いスピーチになればなるほど、メッセージを一言で要約するのが難しくなります。そこで効力を発揮するのが、キーワードやキーフレーズ使いです。

例えばミシェル・オバマのスピーチでは、「I’m with her」や「I want a president who …… that’s kind of president I want」などのキーワードやフレーズを通して、One BIG Messageを様々な角度で強調していました。ビル・クリントンのスピーチでは、「Change maker」というキーワードが使われ、バラク・オバマ大統領のスピーチでは、8年前、当選に導いた素晴らしいスピーチのフレーズ「Yes we can」を今回も使い、繰り返し語ることで、伝えたい1つのメッセージを聴衆の心に焼き付けると同時に、8年前の約束を守り通していることをも示唆しており、非常に戦略的なフレーズ使いでした。そして覚えやすいフレーズを聴衆も一緒になって唱えることで、一体感が高まっていました。

しかしメラニア・トランプのスピーチにはそのようなキーワード、キーフレーズは全く見当たらず、全体としてぼやけた印象となってしまっていました。その証拠に、彼女のスピーチの間中、起こった拍手や歓声はすぐに鳴りやみ、フレーズを連呼する聴衆もいませんでした。

ストーリーで聴衆の心を勝ち取る

スピーチの要はストーリーであるということは過去の記事でも強調しました(2015年9月8日の記事にリンク)。メラニア・トランプのスピーチに欠けていた最大の要素、それは、ストーリーです。

ビル・クリントンのスピーチは、1971年にヒラリーと初めて出会った時のとてもパーソナルなストーリーが語られました。チェルシー・クリントンが、母親のヒラリーを紹介したスピーチでも、子供の頃の母親との思い出のストーリーが、次々と軽快に語られていき、ヒラリー・クリントンの人となりを明確に打ち出しました。ミシェル・オバマのスピーチでは、ホワイトハウスに引っ越してから、当時まだ10歳と7歳だった子供たちを初めて学校に送り出した日の様子や、黒人の男の子がホワイトハウスを訪れた時の様子などがストーリーとしてビビッドに語られています。バラク・オバマ大統領のスピーチでは、自分が出会ったアメリカ市民一人ひとりのストーリーや、家族との会話の様子などがストーリーとして語られています。

「ストーリー」は、「言葉」を活き活きと「(頭の中に描かれる)映像」化してくれるのです。情景が目に浮かぶことで、聞き手はそのストーリーを一緒に疑似体験し、共感力が高まり、心がひきつけられていくのです。

しかしメラニア・トランプのスピーチは、自分の生い立ちや両親から教えられた価値観、といった、ストーリー化できるコンテンツがいくつかありながらも、単なる事実の共有にとどまっており、聞き手の心を揺り動かす力に欠けていたのが非常にもったいなかったと思います。

いかがでしたか? 総合的に評価すると、メラニア・トランプのスピーチは、印象の薄いスピーチに終わっており、成功とはいえないでしょう。さて、東京都知事選の各候補者たちは、果たしてメラニア・トランプの演説にすら追いつくことができるのでしょうか……?!

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投稿者プロフィール

リップシャッツ 信元 夏代
リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)
早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡米後、伊藤忠インターナショナルにて鉄鋼、紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーにて消費財マーケティング・事業プロセス改革などの業務に携わった後、2004年に、事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンス社を設立。
 2013年、2014年春季トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初の地区大会優勝2連覇を果たしている。この経験を受け、2014年9月にブレイクスルー・スピーキングを設立。グローバルに活躍したい日本人のためのグローバルパブリックスピーキングのE-learningプログラムを中心に、個人コーチングセッション、企業内研修なども行う。TEDxTalkスピーカー。