自分だけのドーナツを見つけよう

ストーリー、ストーリー、ストーリー!!

とはいいながら、ビジネスパーソンが行うプレゼンで、ストーリーを巧みに組み込んでいる事例は、日本ではまだまだ多くは見られません。

そんな中で、素晴らしいストーリー作りをしているな、と感心するのが、トヨタ自動車がYouTubeで配信している、トヨタイズムというチャンネルです。約3万人のチャンネル登録者を持つ、この「トヨタイズム」チャンネルでは、豊田社長や役員のスピーチ・インタビューから、著名人と豊田社長の対談、そして、俳優の香川照之氏を「編集長」として起用した、「編集長」による取材に至るまで、あらゆる角度で、トヨタイズムをストーリーとして魅せています。

その中で、つい先日、5月18日に豊田社長が出身校のバブソン大学(米国ボストン郊外)の卒業式で行ったスピーチがトヨタイズム・チャンネルにアップされ、反響を呼んでいます。

ワンビッグメッセージをドーナツにのせて

前回のコラムでワンビッグメッセージの大切さについてお話ししました。

どんなスピーチでもプレゼンでも、この一点が聞き手に伝わってほしいというメッセージがあり、それをブレイクスルーメソッドでは、One Big Massage〔ワンビッグメッセージ〕と呼んでいますが、何よりも大切なのは、スピーチの最初から最後まで全体を通して、このワンビッグメッセージが一貫して明確に伝わってくる、ということです。

豊田社長のバブソン大学での卒業式スピーチは、このワンビッグメッセージが非常に明確、かつ、スピーチ全体に一貫して伝わっていました。

スピーチ全体を通して豊田社長が伝えていたワンビッグメッセージは、「自分に喜びをもたらすものが何か、見つけよう」というメッセージだったのですが、ここで、このワンビッグメッセージをそのまま伝えるだけではないのが、プレゼン上級者の豊田社長のテクです。

こんな表現を使ってワンビッグメッセージを伝えていました:

「自分だけのドーナツを見つけよう(15字)」/「Find your own donut(4ワード)」

さらに、このフレーズを登場させる前に、豊田社長は「自分に喜びをもたらすものが何かを見つけよう」、と心に響くメッセージを語り、それに続いて自分がバブソン大学の学生だった時のストーリーを語ります。そして、「アメリカで私が自分で見いだした喜びは……」「ドーナツ」。心に響くメッセージを語った後の、「ドーナツ」。期待を外すことで大きく笑いをとりながら、「ドーナツ=自分の喜び」というたとえを印象付け、この「ドーナツ」のたとえをスピーチ全体にちりばめて、いわば横ぐしのように刺すことで、一貫したワンビッグメッセージを伝えています。

さらに言うならば、「ドーナツ」に例えてワンビッグメッセージを語る、このクリエイティブな手法は、Analogy(アナロジー/たとえ)という手法です。

ワンビッグメッセージを焼き付けるための戦略的手法には、4つのAというのがあります。

●Analogy(たとえ)
●Anecdote(ストーリー)
●Acronym (略語や頭文字)
●Activity(何か聞き手にアクティビティーをさせる)

ドーナツの例はAnalogyにあたり、誰にでもイメージが付きやすく、親しみやすい「ドーナツ」に例えることで、ワンビッグメッセージを強烈に聞き手の脳裏に焼き付けています。まさにスピーチ達人のなせる業です。

パーソナルストーリーでドーナツを強調

また、豊田社長は、今回に限らず、カンファレンスでの基調講演や新車発表会の場などでも、パーソナルストーリーをふんだんに取り入れています。

今回の卒業式スピーチの場合には、3つのストーリーが組み込まれていました。

ストーリー①:初めてアメリカで留学生としてバブソン大学の学生だった時、寮→教室→図書館、寮→教室→図書館の繰り返しで、つまらない人間だった。ところがニューヨークで働き始めてからは、夜の帝王になった、という、豊田社長の当時の様子が目に浮かぶような「人物像描写ストーリー」

ストーリー②:少年だった頃、タクシードライバーになりたかったという、「自分の夢ストーリー」

ストーリー③:社長に就任してからの、景気後退や東日本大震災、リコールなどの、「苦悩のストーリー」

この3種類です。そしてこれらのストーリー作りには、ブレイクスルーメソッドでも提唱している、ストーリーのネタにすべき4つのFを巧みに取り入れています。

●Failure(失敗)
●Frustration(苦悩)←「ストーリー③:苦悩のストーリー」
●Flaw(欠点)
●First(初めての体験)←「ストーリー①:人物像描写ストーリー」

こういったストーリーを通して、大学生という、世代も立場も異なる聞き手との距離をぐっと縮めることに成功しているのです。

これからの真のグローバルリーダーにはストーリーが必要

ちなみに、トヨタイズムというYouTubeチャンネルでは、「未来を、どこまで楽しくできるか。」というコピーを掲げ(ブレイクスルー用語では、これがトヨタイズム・チャンネルのワンビッグメッセージに相当します)、すべてのビデオで、「楽しさ」を強調するストーリー作りが工夫されています。

バブソン大学の卒業式での豊田社長のスピーチは、トヨタ自動車という企業の枠を超えた場面でのスピーチではありましたが、それでも、「喜び、楽しさ」をワンビッグメッセージに掲げており、トヨタ自動車という会社の代表者としてだけでなく、豊田社長という一個人としても、一貫した信念とパッションをもって有言実行しているのだな、というのがひしひしと伝わってきます。

真のグローバルリーダーに必要なのは、ここではないでしょうか。

単に、企業を代表するものとして企業のメッセージを伝えていくだけでは、真のグローバルリーダーになるには不十分なのです。企業をグローバル社会で率いていき、周囲を巻き込んでいくためには、一個人としても、心の底から、企業のメッセージを信じ、情熱をもち、どんな場面においても一貫性をもって、仕事・パーソナルの区別なく、有言実行しているのか。そんな姿勢は、おのずと世界の人たちに伝わるものなのです。それが伝わると、おのずと人は引き込まれ、集まり、信念を共有しようと皆が動き出すものなのです。

だからこそ、一人の人間としての情熱をもってストーリーを語り続ける。それがこれからの真のグローバルリーダーに必要とされる資質ではないでしょうか。

『20字に削ぎ落とせ~ワンビッグメッセージで相手を動かす』

長年にわたり、ヒューマンキャピタルOnlineにて、相手を動かすスピーチ・プレゼン術、ブレイクスルーメソッドを基にコラムを書いてきましたが、このたび一冊の書籍として刊行する運びとなりました(朝日新聞出版刊)。ぜひご覧ください。

投稿者プロフィール

リップシャッツ 信元 夏代
リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)
早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡米後、伊藤忠インターナショナルにて鉄鋼、紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーにて消費財マーケティング・事業プロセス改革などの業務に携わった後、2004年に、事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンス社を設立。
 2013年、2014年春季トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初の地区大会優勝2連覇を果たしている。この経験を受け、2014年9月にブレイクスルー・スピーキングを設立。グローバルに活躍したい日本人のためのグローバルパブリックスピーキングのE-learningプログラムを中心に、個人コーチングセッション、企業内研修なども行う。TEDxTalkスピーカー。