コントラストで相手の心を揺らすストーリーを作る

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モールエスカレーター方式

顧客へのプレゼンであれ、ミーティング時の発表であれ、ストーリーを語ることは相手を動かすうえで効果的です。ただし、相手を動かすストーリーには、ある法則があります。

空港などにある、動く歩道を思い浮かべてください。

空港の広いフロアを短時間で移動するために使われますが、動く歩道は平らです。一つの動く歩道が終わったら、少し歩いてまた同じ動く歩道があります。それがずっと続いていきます。もしストーリーが、この動く歩道のように、ずっと平らな状態で延々と続いたらどうでしょうか。例えば、映画「タイタニック」で、タイタニック号が氷山にぶつかった後、水が足元浸水しているだけの状態が延々と続いたら、きっと観客は飽きてしまうことでしょう。

次に、エレベーターを思い浮かべてください。

例えば1階から乗って32階のボタンを押すと、たった数秒で目的階に到着します。もしストーリーが、このエレベーターのように、一瞬でクライマックスに到達したらどうでしょう。例えば、映画「タイタニック」で、タイタニック号が氷山にぶつかった瞬間に沈没してしまう、というストーリー展開です。一瞬でストーリーが終わってしまい、こちらも観客にとっては物足らないことでしょう。

ではどんな流れがあれば、観客の心が揺れるのでしょうか?

それが、モールエスカレーター方式です。

「モール」とはアメリカの郊外によくあるショッピングモールのことです。日本、例えば首都圏の方なら、表参道ヒルズをイメージしてください。エスカレーターを1階分上がると、そのフロアをぐるっと回って次のエスカレーターに乗る、という方式です。デパートなどでも同様の造りになっているところがありますね。ストーリー展開がこのモールエスカレーター方式になっていると、観客の感情が少し高まったところで安定が訪れ、するとふたたび感情の高まりが起こり、安定、また高まり、安定……というように、コントラストが生まれてきます。このようなコントラストが生まれると、人は心が揺さぶられ、心惹かれるストーリーが出来上がるのです。

コントラストにも種類がある

コントラストには、3つの種類があります:

1. 構造上のコントラスト 2. 感情のコントラスト 3. デリバリーのコントラスト です。

まず、構造上のコントラストについてご説明しましょう。

原稿を構成していく際に、セクションごとに意識的に異なる要素を入れていくことです。最初にストーリー、次に統計、事例、市場の展望、動画、大事なメッセージ、と展開させていきます。2016年の民主党大会の際のビル・クリントンのスピーチを例に説明しましょう。

冒頭から、1971年にヒラリーと初めて出会った時のパーソナルなストーリーが展開されます。その後、統計、ストーリー、事実、ストーリー……というように、構造上でのコントラストが効果的に使われているのが分かります。そして、一貫した大切なメッセージ、ワンビッグメッセージが横串のようにしっかりとすべての要素をつなぎ合わせています。

次に、感情のコントラストです。

ストーリーには感情の揺れを引き起こすことが必要です。いわば、相手をジェットコースターに乗せているかのように、山あり谷ありの感情の揺れを戦略的に組み込んでいくのが上級ストーリーテラーです。感情のコントラストを出すためのコツに、「シルバースプーン手法」と「バーバルナイフ手法」の合わせ技があります。

まず、「シルバースプーン手法」とは、英語圏で「Born with a silver spoon in one’s mouth」のように使われるように、シルバースプーンは裕福さの象徴として、赤ちゃんに幸せな人生を送ってほしいと願うことに由来しています。つまり、シルバースプーン手法というのは、「こんな素敵な未来が待っている」と、夢見型メッセージを投げかけることを言います。

一方、「バーバルナイフ手法」とは、「言葉のナイフ」つまり、言葉で感情を傷つけ、危機感や焦燥感をあおる脅迫型メッセージを投げかける手法です。

シルバースプーン手法とバーバルナイフ手法の両方を交互に組み合わせていくことで、夢見型と脅迫型の間を行ったり来たりしているうちに感情が大きく揺さぶられるのです。近年のアメリカでは、ジョー・バイデン前米副大統領は、この感情のコントラスト遣いが非常に巧みな政治家でした。

最後にデリバリーのコントラストです。

これは、スピーチをする際の、声の強弱、高低、緩急、さらには、ボディーランゲージを大きく使うところと小さく使うところ、あるいは、舞台上を大きく左右に動くところと静止するところ、など、物理的なコントラストをつけることで、観客の視覚や聴覚を飽きさせないだけでなく、目に見えない舞台セットがあたかもそこにあるように物理的なコントラストで「場」を使うことで、ストーリーが手に取るように感じられるような効果もあります。

この3つのコントラストを使いこなせるようになれば、あなたもストーリーの達人です。

投稿者プロフィール

リップシャッツ 信元 夏代
リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)
早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡米後、伊藤忠インターナショナルにて鉄鋼、紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーにて消費財マーケティング・事業プロセス改革などの業務に携わった後、2004年に、事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンス社を設立。
 2013年、2014年春季トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初の地区大会優勝2連覇を果たしている。この経験を受け、2014年9月にブレイクスルー・スピーキングを設立。グローバルに活躍したい日本人のためのグローバルパブリックスピーキングのE-learningプログラムを中心に、個人コーチングセッション、企業内研修なども行う。TEDxTalkスピーカー。