良い仮説をつくるために

ビジネスは、毎日が問題解決の連続です。大なり小なり、ありとあらゆる所から降りかかってくる問題に対し、ビジネスパーソンは瞬時に判断を下し、前進していかなければなりません。しかし、経営について勉強したり、業務経験を積んだだけでは、「知識」や「勘」は身についても、「真の思考力」はなかなか身につかないものです。「真の思考力」とは「知識」や「勘」を上手に活用しながら、本質的な問題を探り当て、それを解決していくための「スキル」であるからです。

本コラムでは、戦略コンサルタントが日々活用しているロジカル・シンキング手法を基礎から紹介します。ロジカル・シンキング力を鍛えるための頭の体操や、アメリカを中心に起こっている出来事をケースとして取り上げながら、読者のロジカル・シンキング力を刺激していきます。

精度の高い仮説が早く正しい結論に導く

仮説思考とは
よく、分析が上手だと言われる人がいます。実は、分析が上手な人は仮説を作るのが上手だと言われています。またビジネスが上手な人も、実は精度のよい仮説を持っている人だと言われています。

仮説思考とは、何かに取り組む際に、その時点で考えられる仮の結論、つまり仮説を置いて考える思考方法のことです。網羅的に考えるよりも仮説を置いて考える方が、分析・調査の無駄が少なくなります。つまり、精度のよい仮説思考を身につけることは、仕事のスピードアップにつながるのです。

これまで、MECE(ミーシー)やロジックツリー、「So What?」「Why So?」などをお話してきました。そして、ロジカルシンキングのための最後の重要要素が、仮説検証です。仮説検証とは、ロジカルシンキングをより効率化させるための考えるプロセスのことです。

仮説を立てる
何か調査をする際、一般的には、課題に対して何の方針もなく、漠然と情報収集やリサーチをしがちです。その結果、莫大な情報に埋もれてしまい、肝心な情報の分析がぼやけてしまい、よい結論を導き出すことができないことが多いものです。仮説がないと、調査の方向性が定まりません。意思決定をするために必要十分な情報を集めるためには、調査を方向付ける軸が必要なのです。この軸こそが「仮説」です。

仮説思考で行う調査は、まずは手持ちの限られた情報の中から、目標の達成・問題解決になりそうな仮の結論、つまり仮説を最初に立ててしまいます。この時点では仮説は必ずしも正しい結論である必要はありませんが、より精度の高い仮説を立てるためには、日常において、バランスよくアンテナを張り巡らして情報を集めておくと、そこで得られたファクトをベースに、精度の高い仮説が立てられる可能性が増します。仮説を作る前に、まず自分が何を知りたいのか、どういうことをしたいのか?を改めて繰り返し考え、その目的に沿った仮説を構築するのです。仮説の精度が高いと、それだけ早く正しい結論にたどり着く可能性も高まります。

よい仮説を作るためのポイント

では、どう仮説をたてればいいのか。以下に、良い仮説を作るための5つのポイントを紹介します。

・新規性、独自性のある仮説であること
一般的な観察事項から用意に導ける仮説だと、競争相手も簡単に気づいてしまいます。「洞察のSo What?」を働かせましょう

・目の前のデータに飛びついたり、今知っていること、分かっていることだけで仮説を立てないこと
目の前の情報だけに考えが流されてしまい、結果として筋の良い仮説にはならない可能性が高くなります。必要な情報をMECEに網羅できているか、何度も確認しましょう。

・具体的なアクションにつながり、最終的に定量化可能な仮説にすること
「価格を下げれば売れる」では具体的なアクションには結びつきません。○ドル下げれば△個多く売れるだろう、という仮説にすることで、次のアクションにつなげやすくなります。

・立証したときに、行動への意味合い、影響があり、実際に活用できる仮説にすること
つまり、「So What?」が見えない仮説を作らないようにする、ということです。例えば、「男性は女性よりも倹約家だ」という仮説を立てても、「だから何?」という仮説になってしまいます。「男性は現在使用しているモノが壊れるまで新しい商品を購入しない」とすれば、「そのモノのライフサイクルは何年か?」「そのライフサイクルを変えられるか?」「使用頻度は?」「修理市場に参入できるか?」など、次に明確化すべき課題や取るべき行動が見えてきます。

・常識を疑ってみること
精度の高い仮説を立てるには、幅広い分野での見識があるほうが有利です。しかし、一通り常識を知った上で、あえて常識を疑ってみることも重要です。

仮説は8割実証できれば合格

仮説を検証する
次のステップは、仮説の検証です。精度の高い仮説を立てられたら、その仮説を基に「どのような情報を集めればそれが検証できたといえるか」を考え、必要かつ質の高い情報を収集、整理し、分析・検証、修正を行っていきます。検証の結果、仮説が間違っていることもあるでしょう。その場合はすぐに仮説を修正し、再度検証をしていきます。

これを繰り返すことで、より精度の高い結論を導き出していきます。この仮説検証を行う際、前回までお話した「So What?」と「Why So?」を繰り返すことで本質的な問題へと掘り下げて結果を導き出し、次なる解決方法や具体的な実行計画を策定していくことも重要となってきます。

「仮説を立てたら、どこまで検証したらよいのか」という質問をよく受けることがあります。仮説は、8割程度実証できれば合格です。あまりに正確さを求めようとすると逆に非効率となり、8割を9割の精度にしたところで、実際取るべきアクションにはさほど大きな影響を与えないことのほうが多いのです。

情報の収集、整理、分析・検証を行う際、いくつかの適切なフレームワークを活用すると、ロジカルかつ効率よく仮説検証を進めることができます。次回のコラムでは、仮説検証のプロセスにおいて役に立つ、コンサルタントの武器ともいえるさまざまなフレームワークをご紹介します。

投稿者プロフィール

リップシャッツ 信元 夏代
リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)
早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡米後、伊藤忠インターナショナルにて鉄鋼、紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーにて消費財マーケティング・事業プロセス改革などの業務に携わった後、2004年に、事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンス社を設立。
 2013年、2014年春季トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初の地区大会優勝2連覇を果たしている。この経験を受け、2014年9月にブレイクスルー・スピーキングを設立。グローバルに活躍したい日本人のためのグローバルパブリックスピーキングのE-learningプログラムを中心に、個人コーチングセッション、企業内研修なども行う。TEDxTalkスピーカー。