長引くパンデミックの影響で、ミーティングやセミナー、イベント、研修などがリアルの場からバーチャルの場に急速に移行しています。

私が住む米国でも、人が集まるイベントはもちろんのこと、子供の学校の授業もバーチャルに移行して、はや2カ月がたっています。私は米国でプロフェッショナルスピーカーとして活動していますが、プロスピーカー仲間たちの中には自宅の一部を「ホームスタジオ」にしてしまった人もいるほどです。そんなハイテクプロスピーカーや、テクノロジー系の企業でセミナー登壇の機会が多い方のバーチャル登壇の舞台裏を見ると、プロのような機材がそろっています。

こうした光景を見ると、バーチャル登壇は敷居が高いように感じてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。私はノートPCとマイク、ライトのみという最小限の機材で、バーチャルイベントに登壇しています。バーチャル登壇には、機材やテクノロジーよりも留意しておきたいコツがたくさんあります。

そこで、今回は誰にでも実践できる「バーチャル登壇を成功させる秘訣(ひけつ)」をお話ししたいと思います。

情報をエンタメ化せよ!

まず、皆さんが聞き手としてバーチャルミーティングに参加している場面を思い出してください。ずっと座って画面を見て集中しているでしょうか。きっと、手元にスマホを置いてSNSを見たり、メールをチェックしたりと何らかの作業を同時進行させながら参加していませんか。自宅からのテレワークなら家族に呼ばれて、ちょっと席を外したりするかもしれません。

バーチャルの場だと、自分のカメラをオフにすることができるため、話し手やイベント主催者はもちろん、ほかの参加者たちからも自分の姿を見られない状態にすることができます。「見られていない」と思うと、ついつい他のことをしてしまいたくなるのがヒューマンネイチャー。自分がプレゼンを聞いている側であれば、これはマルチタスキングができる格好の機会です。

ところがプレゼンする側に立った際はどうでしょう。いつものようにミーティングルームにみんなが集まっている時よりも、話を聞いてくれていないという環境になるわけです。そんな中で、伝えたいメッセージをしっかり伝えるにはどうしたらよいのか?

私の著書『20字に削ぎ落とせ~ワンビッグメッセージで相手を動かす』(朝日新聞出版)でもお伝えしているように、メッセージは「ワンビッグメッセージ」つまり、たった一つの大切なメッセージに絞り込み、余計な情報は削ぎ落とすことが大切なのですが、バーチャルプレゼンの場合は、さらに情報の削ぎ落としが必要になります。

集中力が持続しにくい聞き手にメッセージが刺さるためには、徹底的に「削ぎ落とされた」メッセージを「覚えやすいフレーズ」で「繰り返し」伝えていくことが必要です。最初の2、3回は注意散漫で聴いていなかったとしても、プレゼンの最後にはメッセージが耳に入っていくことでしょう。

普段からブレイクスルーメソッドでは「スピーチ・プレゼンは情報のエンターテインメント」だとお伝えしているのですが、バーチャルの場合はさらにこのエンタメ性が大切になってきます。といっても、何も歌ったり踊ったりするわけではありません。聞き手の集中力を切らさないような仕掛けを作ろうということです。

例えば、つい聴き入ってしまうパーソナルストーリーを語ることです(ストーリーの作り方は6月に発売予定の『ストーリーに落とし込め~世界のエリートは自分のことばで人を動かす』(フォレスト出版)をぜひご参照ください)。あるいはチャットに意見を記入してもらったり、挙手ボタンを押してもらったり、その場でライブ投票(Poll)を行ってすぐに結果を共有してみたり、パーソナルな写真や動画をプレゼンに組み込んでみたりというように、インタラクティブに聞き手を動かしていくような仕掛けです。このほか、ブレイクアウトルームなどを使いながら、参加者全員のエンゲージメントをさらに高める工夫もできるかもしれません。

「バーチャルでの情報伝達率はリアルの場合より低い」と心がけて、普段よりも聞き手の注目を引きつけ続けることに集中しましょう。

物理的制限を逆手にとれ!

バーチャルだと、PCやスマホのディスプレーの幅だけに場所が制限されてしまいます。この制限を逆手にとることもできます。

ブレイクスルーメソッドでは常々「プレゼンの最大の敵は無変化」だとお伝えしています。普段のプレゼンでも、演台の後ろに立ったまま、不動の状態で表情も変えずに話し続ける――。そんなスピーカーは、飽き飽きしてしまいますよね。聞き手には、何らかの「変化」が必要です。ですから、普段のプレゼンでは演台上で動いたり、意味のあるボディーランゲージを使ったりしながら、変化をつけることをお勧めしています。

バーチャルの場合はどうでしょう。PCの前に座った形式がほとんどかもしれませんが、立つというオプションも考えられます。両方にアドバンテージとディスアドバンテージがあります。

座った形式では、聞き手から顔がよく見えるので話し手との距離が近く感じられます。ただし、座っていると動きが制限されるため、「演題の後ろに立ったまま不動の状態」のようなスタイルになってしまい、変化のない状態が長くなってしまいます。

立った形式ではボディーランゲージが使えるようになり、物理的な変化を生み出すことが可能になります。一方で、少々距離を感じてしまうというディスアドバンテージがあります。さらに、あまり動きすぎてしまうと画面からはみ出してしまいます。狭い画面の中で動きだけが強調されて逆にうるさくなってしまうかもしれません。

私がバーチャルで登壇する際は、立つ場面と座る場面を使い分けています。

まず立つ場合、全身がカメラに入るようにすると遠すぎてしまうため、上半身がしっかり写るくらいの距離を保ちます。この距離感で十分、手の動きを効果的に使えます。カメラの関係で左右の幅はあまりとれないので横に動くのは歩幅1歩ずつくらいに抑えますが、奥行きを使ってみると、とても効果的に変化を作ることができます。例えば、重要なメッセージを伝える時はカメラに近づき、しっかりとカメラを見て、聞き手に語りかけます。そしてストーリーを語っている時は、PCから離れて動き出してみる。至近距離までカメラに近づいて語りかけるのが、とてもインパクトがあります。あまり多くのスピーカーは使っていない場づかいなので「慣れているな」という印象を与えられると思います。

質疑応答の時には座ります。そうすることで、落ち着いて質問者の話を聞きつつパーソナルに話しかける、あるいは気さくに会話をしながら回答をしているという印象を与えられるからです。

バーチャル登壇をする前に自主練として、実際に「Zoom」などのウェブ会議ツールでリハーサルを録画してみましょう。自分の姿が聞き手にどんなふうに映っているのかが分かりますし、どれくらい動いたらよいのかといった場の感覚や課題点も見えてくるはずです。

相手の顔は見ざるべし!

バーチャル登壇の場合、主催者側の設定によって、参加者全員の顔が画面に出る場合と一切出ない場合があります。前者の場合が多いと思いますが、そうすると人間の心理としては、相手の顔を見ながら話したいと思うことでしょう。

対面なら「相手の顔をしっかり見ながら話す(アイコンタクトをとる)」ことは基本中の基本です。ところが、バーチャルの場合は違います。カメラは画面の上(タブレットなどなら横かもしれません)にあるのに、画面に映った相手の顔を見てしまうと、参加者側から見た場合、話し手は自分と目線を合わせず、ずっと下の方(またはカメラの位置によっては横の方)を見ているという状態になってしまうのです。一度も聞き手と目を合わさず話し続けるスタイルでは、聞き手の心はすぐに離れてしまいます。

ですから、バーチャルの場合の目線は、画面に映る参加者の顔ではなく、カメラにしっかり目線を合わせるようにしましょう。

映像より音質にフォーカスせよ!

聞き手にとって、ビデオの画質は良いが音声が悪いのと、画質は悪いが音声は良いという二択が与えられた場合、多くの方が後者を選ぶことでしょう。アクション映画などのエンタメ目的なら、映像だけを見ていても楽しめるかもしれませんが、バーチャル登壇はメッセージが伝わってなんぼです。たとえ話し手の顔がはっきり見えなかったとしても、音声がしっかり聞こえていれば、メッセージをきちんと伝えることができるのです。

安定した通信環境があることが基本ですが、聞き取りやすくクオリティーの高い音声を届けるためには、マイクだけでも良いものをそろえておくことをお勧めします。マイクを使っていないと、動いた時に(座っていても頭を動かしたり、椅子にもたれかかってちょっと距離が遠くなったりした時に)、音量にばらつきが出てしまいます。スマートフォンに付属してくるようなヘッドホンを使う方も多いと思いますが、クオリティーはさほど高くないことに加え、コードをつなげなければならないのでPCから離れて動くことができません。アップルのワイヤレスヘッドホン「AirPod」を使う方も多いのですが、私の実験ではAirPodを通した音声はクオリティーがあまり高くありません。聞き手は画面を通して主にあなたの顔を見ていますから、見栄えも少し気にしたいですよね。耳に何か付けているよりも、何も付けていない方がすっきりして見えます。

そこで私が使っているのは、ワイヤレスのクリップ・オン・マイクです。スマホにもPCにもブルートゥースで簡単に接続でき、クオリティーも良好。スタジオ収録のようなハイエンドなマイクにはさすがに及びませんが、ポッドキャストやラジオなどを定期的に配信する方でない限り、そこまで高いものをそろえる必要はありません。プロスピーカーの仲間からも「音いいね、何を使っているの?」と聞かれました。見栄えもとても良く、プロフェッショナルに見せることができます。

サブ・ファシリテーターを活用せよ!

バーチャルならではの様々な配慮も必要になってきます。例えば、Zoomなどのツールには通常、チャット機能やQ&A機能などがあります。ライブ投票(Poll)なども可能です。エンタメ性を上げて聞き手の集中力を切らさないように、これらの機能を活用していきたいのですが、一方で話し手が全部仕切ろうとしてしまうと、無駄な間が空いてしまったり、落ち着かない印象を与えてしまったりすることもあります。

そこでお勧めしたいのは、サブファシリテーターを立てるということです。いわば、話し手のアシスタントのような役割ですが、このサブファシリテーターにチャット中の参加者の声や質問を吸い上げてもらったり、重要な情報を記載してもらったり、バックエンドのマネジメントをしてもらったりすることで、話し手がメッセージを伝えることに集中することができます。さらに、時折「何か質問来ていますか?」「はい、来ています。山田さんからの質問で……」というように、サブファシリテーターとの会話を挟めることで「無変化」状態から脱出して、インタラクティブさを演出することができ、さらに効果的です。

バーチャル背景はできれば使わない

ウェブ会議ツールの一部は「バーチャル背景(ユーザーが指定した画像を背景にする機能)」という機能を搭載しています。これを使えば雰囲気作りができると同時に自宅の散らかった様子も隠せるのでとても便利です。でも、バーチャル背景を使うと、動いた時に宇宙をさまよっているような不思議な残像が出てしまいます。動きが大きくなればなるほど、体の一部が背景の中に消えていったり、動いている手の周りがファジーになったりしてしまうのです。

ずっと着席してほとんど動かない、ニュース番組のアンカーのようなスタイルならバーチャル背景は使えるでしょう。しかし、上述の通り、オンラインだからこそ、様々な変化をつける工夫をしたいので、バーチャル背景は使わずに自分自身の動きや、エンタメ性で聞き手を引き込んでみましょう。

衣服も背景と同化してしまわないように気を配るとよいでしょう。もし後ろの壁が白なら、白の衣服は避ける。背景に模様がついているなら、柄物の衣服は避けるといった具合です。

どれも難しいことではありませんので、皆さんもぜひバーチャル登壇を楽しみながら実践してみてください。