プレゼンやスピーチには、話し手が伝えたいことを主張するというイメージがあります。

「今日、私がみなさんにお話ししたいことは……」

「私の経験では……」

「わが社の実績は……」

「私が」「わが社が」「われわれが」……

自分は決して「オレオレ」と言っているつもりではないのに、気づかないうちに「自分視点」で話してしまっているケースがほとんどなのです。これこそ、私が「オレオレスピーチ」と呼ぶ「自分視点のスピーチ」です。

このような「オレオレスピーチ」では、自分が伝えたい内容が前面に出てきてしまい、聞き手の興味や問題意識などは後回しになってしまう傾向にあります。

最初に自問したい4つの質問

一方で、良い語り手とは「聞き手視点」で話ができる人であって「オレが主役」ではありません。「聞き手視点」で考えてみれば、主役は聞き手なのです。

でも、この聞き手視点というのが、意外にも難しいものです。気づかないうちに「オレオレスピーチ」になってしまわないためには、スピーチ・プレゼンを作り始める前に、必ず次の4つの質問を自問するようにしてみましょう。

(1)聞き手は誰か?

聞き手の会社や肩書などだけでなく、プレゼンの内容に関する知識レベルや興味レベル、重要と感じる情報、主な関心事、心が動くツボ――などを分析することです。事前に電話などで情報収集できればベストでしょうが、初めて伺う会社での初回の営業プレゼンなどではそれも難しいでしょう。でもそういった場合でも、今ならインターネットを使えば、相手や先方の組織に関する情報はある程度取れるはずです。ですからしっかりと調査分析を行ったうえで、相手像に関する仮説を立てておくだけでも「聞き手視点」に大きく一歩近づきます。

(2)聞き手のメリットは?

次に自問したいのは「聞き手がその話を聞くことで得られるプラスな点は何か」ということです。あなたが売りたい商品、あなたが通したい企画、あなたが知ってほしい知識は、聞き手にとってどのようなメリットがあるでしょうか。聞き手にとって魅力的な「未来予想図」を見せることができれば、相手の心の扉はきっと開くことでしょう。それこそが、相手を動かす第一歩です。

(3)聞き手になぜ自分が話すのか

3つ目に自問したいのは「なぜ、あなたがその話をしなくてはならないのか」ということです。ほかの誰でもなく、なぜあなたがその話をするのでしょう? 自分にしか語れないストーリー、経験談、知識、情熱などなど、自分の強みや過去の経験など、自分の内側を観察してみると、必ず、あなたにしかできないことがあるはずです。

(4)聞き手にどうなってもらいたいのか

最後に考えたいのは「なぜ、あなたはその話をするのか」という根本的な問題です。そもそも、その話をする目的はなんでしょうか? 相手に伝わるだけでなく、動かすためには「このプレゼンが終わったら聞き手にどうなっていてほしいのか」を明確にしておく必要があります。

例えば、懐疑心や反対意見を持つ相手を説得したいのか。何度も営業しているので今回は購入に踏み切ってもらいたいのか。あるいは社員のやる気を高め、啓発したいのか――。たとえプレゼンの最終目的が「売る」ことだったとしても、実際に買ってもらえるまでには数回のミーティングを行うことでしょう。そして1回ごとに、注力すべきポイントは異なるはずです。ですから、プレゼンのたびに「今日のプレゼンの終了後には聞き手にこうなってもらいたい」というミニゴールをつくってみてください。

不確実な環境だからこそ、聞き手視点をより意識して

新型コロナウイルスの感染拡大をはじめとして、予期せぬ環境変化が著しい現在。ビジネス現場では、これまでの経営やルールは機能しなくなりつつあります。

コミュニケーションにおいても、急速にオンラインへの移行が進み、身振り手振りなどの表現や、暗黙の了解、阿吽の呼吸といった前提が通用しなくなりつつあります。こうした状況では、これまで以上に「意思疎通が難しい」「相手に伝えたいことが伝わらない」といった課題に直面しているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。

しかし、このような不確実性は、もはや世界的なメガトレンドの一端であり、どのような環境下でも「伝えたいことを伝えたい相手にきちんと伝えること」「説得力のある伝え方で相手を動かすこと」は、必要不可欠なビジネススキルであるといえます。

「伝わる」ということは「聞き手にとってしっかりと腹落ち感がある状態」ということです。これは聞き手視点なしには実現し得ないことです。

このような不確実な環境だからこそ、ぜひ、あなたを聞き手視点に導く4つの質問を問いかけてみましょう。