聴き手の興味をひきつける「7秒-30秒ルール」
みなさんはこれまで、様々なスピーチやプレゼンを聞かれたことがあることでしょう。その中で、冒頭から、これはつまらなそうだ…と感じてしまったスピーチはありませんか?そしてそれはなぜでしょうか。
聴衆は、スピーカーが壇上に上がり、声を発した瞬間から様々な判断をしています。なんだか近寄りがたそうな表情をしているな…、眠くなりそうな話し方だな…、あのネクタイ、ちょっと趣味が悪いんじゃない…?「本日はお足元が悪い中お越しいただきまして…」って決まりきったせりふは聞き飽きたのだけれど…、云々。
ここで7秒-30秒ルールをご紹介しましょう。
- 聴衆は、最初の7秒で、スピーカーであるあなたの印象を決めてしまいます。
- そして最初の30秒で、あなたの話が聞くに値するか、面白そうか、判断してしまいます。
えっ、そんな短い時間で判断されるなんてたまったもんじゃない!とお思いでしょうか? しかし30秒で伝えられることは意外に結構あるものです。ただし、伝えたいポイントを明瞭簡潔かつインパクトのある表現を使って伝えることが条件となりますが、その手法は後ほどいくつかご紹介します。
パブリックスピーキングは1対1の対話が拡大したもの
最初の7秒-30秒でそこまで印象が決まってしまうにもかかわらず、多くのスピーカーは、とくに英語スピーチの場合、まず日本語で原稿を書き、それをネイティブの方に英語にしていただき(あるいは添削していただき)、英訳された原稿を読む、というスピーチ方法をとっているようです。しかし、言葉と言うのは、文化的価値観などが背景に積み重なってできているものですから、右から左に「翻訳」しても伝わりきらないニュアンスもあります。更にそれがスピーチの場合、「書かれた訳語」をそのまま読んでしまうのでは、わざわざスピーチをする意味がありません。書いたものを配布して後で読んでもらえばよいではありませんか。
何も原稿を読むのが悪い、といっているわけではありません。もちろん、とくに印象が決まってしまう冒頭はせめて覚えて原稿は見ずに話し始めたいものですが、暗記したとしても教科書を読んでいるかのような、「きちんとした書き英語で書かれた文章」をそのまま音読したようなスピーチでは、7秒―30秒ルールはあっという間に崩れ去ります。
書き英語と話し英語は違います。そして、あなたらしい言い回し、というのがあるはずです。誰かに翻訳してもらい、初めて聞いたような単語を使おうとして自分自身しっくり来ないならば、聞いている側にもそれはしっかり伝わってしまいます。
ひとつのコツは、原稿は忘れて、まず伝えたいことを、自分の言葉で誰かに話してみることです。そしてそれを録音して後で聞いてみましょう。そこから、最も伝えたいことは何か?たった一つのOne Big Messageを、自分自身の言葉でまず引き出していくのです。そのOne Big Messageに繋がるキーフレーズを、冒頭の30秒間の間に、インパクトある手法で伝えるのです。
英語スピーチの場合は、英語で話してみましょう。語彙力が足らなくとも、表現が初歩的でもよいのです。大切なのは、自分の言葉で、会話調で、たった一人のその相手に対して、いいたいことを伝えようとする、ということです。
パブリックスピーキングというのは、1対多数ではないのです。パブリックスピーキングは1対1の対話が拡大したものだからです。
最初の7秒で印象づける、オープニング手法
では、冒頭の30秒間でOne Big Messageを示唆する「インパクトある手法」には、どんな手法があるのでしょうか。
ブレイクスルー・スピーキングのウェビナー(http://www.btspeaking.com)テーマ別実践クラス、「7秒で印象激変!オープニング7つの手法」でご紹介する手法のうち、ここに2つをご紹介いたします。
①いきなりストーリーではじめる
人は、複雑な内容をシンプルに語られるよりも、シンプルな内容を巧みなストーリーとして語られたほうが興味を引かれるものです。ですから冒頭から、ストーリーを語り始めると、その意外性ある出だしと、ストーリーへの興味で、聞き手は、「この人の話をもっと聞きたい!」「次を聞きたい!」と思わせられるのです。
例えば筆者が企業セミナーを実施するときにもこの手法を使うことが良くあります。もちろん、セミナー講師としてのクレディビリティーが得られるように自己紹介もしなければならないのですが、例えば普通に、「Good morning everyone. My name is Natsuyo. Let me go over my background」とはじめたとしても、「上司に出ろといわれた研修だから来たけど…」「仕事忙しいのになあ…」という気持ちで参加している受講者などの心をつかむことはできません。
その代わりに、次のような感じで話し始めるのです。
“I wanna bring you back to March 2014, I was sitting next to Mr. Suzuki, the president of your company, at an Irish bar. We had just finished the annual college alumni event with great success. We were casually talking about many things, but then he said to me, “I’ve known you for a few years now, but I don’t exactly know what you do. What kind of consulting work do you do? ….”
研修だと構えていた受講者は、「2014年3月のことです」という冒頭に、「あれっ?何か違うぞ?」と思い耳を傾けます。次に、「おたくの鈴木社長とアイリッシュバーで隣り合わせになったんですが」というストーリーが続き、益々興味が出てきます。そしてこのストーリーは、「あなたのコンサルティングの仕事ってどんな仕事なの?」と聞かれた台詞からその先に展開していきますので、ここでストーリーの中の会話として私のバックグラウンドを簡潔に話してしまうことができます。更に、社長とこうやって話ができる関係だ、ということを、これまたストーリーの中でほのめかせていますので、講師の立場としての私の信頼性もそれとなくアピールしています。更にその先のストーリーでは、なぜ社長が、私にこの研修を依頼しようと思ったか、その経緯や社長の意図、会社としての企業目標・ゴールなどもさらっと「ストーリー」の一部として話をしてしまい、なぜ受講者の皆さんがこの場にいるのか、という意義や動機付けにもつなげていけるのです。上記の英文をタイマーで図ってみてください。だいたい30秒くらいです。受講者の興味をひきつけるには十分な時間です。
②引用からはじめる
もうひとつ、冒頭で注目を一気にひきつける手法としては、著名人などの引用句を用いる、というものがあります。
ひとつ例をご紹介しましょう。パトリシア・フリップというプロフェッショナル・スピーカーの方の、この動画をご覧ください:
このような出だしです:
“David Bowe sang we can be a hero just for one day (ここまで見事ぴったり7秒). If you can be a hero for a day, can you be a hero for a week? If you can be a hero for a week, then a month? However, if a day is too much, can you be a hero for 10 minutes? (ここまでで25秒)”
歌手のデビッド・ボウイの歌の歌詞を引用して語りかけています。「デビッド・ボウイは、私たちは1日だけヒーローになることができる、と歌っています。もし1日ヒーローになれるなら、1週間はどうでしょう?1週間が可能なら1カ月は?でも1日でもちょっと長すぎるならば、10分間ヒーローになってみることはできるでしょうか。」
この後、いかにスピーカーとして10分間の栄光を作り上げるにはどうしたらよいのか、という話に続いていきます。どうですか?見事7秒~30秒で強烈にひきつけられませんでしたか?しかもこの引用句を本題にしっかりと繋げており、それをたった25秒で達成していますからお見事です。
みなさんも、原稿を読むスピーチから、冒頭からあっと言わせる語りかけスピーチを実践してみませんか?