前回、M社の例を挙げて、事例紹介とストーリーの違いを実例でお見せしました。

下記のとおりです。

M社の事例紹介(ケーススタディー形式)

背景:大豆商品を扱う中小企業M社が開発した新商品に類似商品が現れ、この類似商品を開発販売した大手N社により、市場シェアがどんどん取られてしまう状況に置かれた。

課題:大手N社のブランド認知度や幅広い販路に負けず、自社開発商品の売り上げを確実に伸ばし、市場シェアを回復することが喫緊の課題である。

ソリューション:M社独自の特許技術の特徴を、各顧客にも理解してもらえるよう、中小企業ならではの草の根営業活動を行う。また、特許侵害の訴訟を起こすことで、法的措置という側面からもN社と戦う。

結果:N社が自発的に商品を撤退。M社の市場シェア回復。

M社のストーリー(一般的なストーリー形式)

第1幕:M社は新商品開発が得意な大豆製品メーカーで、市場でも常に良い地位を保っていました。ある時、地場産業とも協力しあい、卓上でたった10分で自家製豆腐が簡単に出来上がってしまう、焼き物の器と、豆腐ができる国産大豆の豆乳と、にがりのセットを開発し、市場からの反応は非常に良いモノでした。地場産業に関わる人々からも、地域経済に貢献していると、非常に賛同を受けていました。

第2幕:ところが、M社の新商品の売れ行きを見ていた大手食品企業のN社が、類似商品をあっという間に開発し、販売を始めたのです。大手企業であるN社はブランド認知度もM社の比ではありません。M社は特許侵害として訴訟を起こすと同時に、自社商品にしかなしえない特徴を顧客に地道に訴えかけて回り、顧客離れを回避することができました。

第3幕:その結果N社はいつの間にか同商品を撤退させ、M社は着実に国内外で市場シェアを伸ばしていきました。

「明確さ」が決め手となる3つの要素

M社のストーリーは事例紹介と比べると、だいぶ興味を持って聞けるのではないでしょうか。

しかし、ストーリーではまだ不十分なのです。このストーリーを聞いて、「なるほど、学んだな!」と感じたでしょうか? 「そうだったんだ、良かった良かった」で終わって満足ではないでしょうか。もし、子供に読み聞かせる絵本だったり、友人に話して、共感してもらうだけが目的ならこれで十分です。

ビジネスの場でこのような反応を得ることは、成功とは言えません。もう一歩先まで見据えて、聞き手から何らかの行動を引き出す。つまり、結果を出して初めて成功と言えるのではないでしょうか。

では、ビジネスにおいて、事例紹介をストーリーへ、ストーリーをさらにコーポレートストーリーへと進化させ、相手を動かすところまで到達するにはどうしたらよいのでしょうか。

それは、一般的なストーリーには足りない、3つの要素を組み込むことです。

1つ目は、明確なゴールです。

ビジネスプレゼンの際、最初に考えたいのは、何を伝えるかよりも、「そのプレゼンの結果、相手から何を引き出したいか」というゴールを明確に設定することです。そして、そのゴールを達成するためには、どんなストーリーをどのように伝えるべきなのかを決めなければなりません。

2つ目は、明確な学びです。

コーポレートストーリーから聞き手が得られる学びとは何でしょうか? 聞き手にとって何らベネフィットもないプレゼンなら、「ああそうなんだ」で終わってしまい、プレゼン後は忘れ去られてしまうことでしょう。聞き手にとっての学びが引き出せなければ、ゴール達成も実現しえません。例えば、「この商品を購入したらこんな便利な生活が待っているんだな」ということです。

そして3つ目は、明確なネクストステップです。

ゴールを達成し、聞き手から学びを引き出したなら、ゴールに沿った「次なるステップ」に確実につなげたいものです。あなたのプレゼンを聞いたあと、聞き手は何をすればよいのでしょうか? メルマガに登録してもらいたいのでしょうか。キーパーソンを紹介してもらいたいのでしょうか。あるいは、既存の競合商品から自社商品へ買い替えてもらいたいのでしょうか。明確なネクストステップが提示できて初めて、相手を動かすことができます。

M社の例をコーポレートストーリーにすると

コーポレートストーリーの真の目的は相手を動かすことですから、周到な準備が必要です。そしてコーポレートストーリーを語るには、事例紹介よりも時間がかかります。ただし、箇条書きのような事例紹介では、聞き手の心を動かすのが難しいことは皆さんもお気づきだと思います。

事例紹介よりもコーポレートストーリーが数分長かったとしても、聞き手の心をつかみ、彼らを動かすことができるなら、その時間も惜しくないはずです。

では、M社の例を事例紹介からストーリーへ発展させてみたように、さらにストーリーからコーポレートストーリーへと発展させてみましょう。

ここで想定するコーポレートストーリーづくりの3つの要素は下記のとおりです:

明確なゴール:類似商品に対抗する秘訣を共有し、わが社のコンサル部門への信頼を高め、コンサルの依頼を受けること。

明確な学び:特許を事前に取得しておくことと、自社の差別化を際立たせる活動を行うこと、この2点が大切。

明確なネクストステップ:わが社のコンサル部門と、初回ミーティングのアポを取ってもらう。

これら3つの要素を念頭に置くと、こんなコーポレートストーリーが語れるのではないでしょうか。一例としてご覧ください。

 類似商品というのはある日、前触れもなく登場します。そして後から出てくる類似商品は通常、競合商品を研究してあるので、皆さんの会社の先行商品より優れているケースも多いでしょう。あるいは、相手が巨大企業で、彼らに簡単につぶされそうになるかもしれません。

それは2年前にまさに我がM社が経験したことです。皆さんの会社に明日、大きな脅威が突如現れたら、すぐに戦い、勝ち抜ける体制は整っているでしょうか。

それまでM社は、大豆製品メーカーとして、新商品を1カ月に1つのペースでどんどん開発して勢いに乗っていました。なかでも、5年前に地場産業の焼き物メーカーと共同で開発した、卓上でたった10分で自家製豆腐が簡単にできる、「10分豆腐」という焼き物製蒸し器と豆乳とにがりのセットを開発販売し、飲食サービス業界でも一般家庭でも人気を博していました。テレビからの取材も多く受けるようになってきた矢先のことです。

ある食品展示会にブース出展していたところ、国内最大手N社の開発部長、N氏が当社のブースを訪ねました。ダブルボタンのダークスーツにオレンジのネクタイ、社交上手な洒落た紳士、というイメージの方でした。

「おたくの10分豆腐、大人気ですねえ!素晴らしい」
「いえいえとんでもない、うちは中小ですから御社のようにはなかなか」
「美味しいですね、どんな材料を使ってるんですか?」
「国産大豆100%、そして天然のにがり100%です」

こんな会話をしてから半年後。ちょうど今から約2年前でした。いつものように、顧客先のスーパーを回っていると、我が社の「10分豆腐」の隣に、N社の「出来立て豆腐セット:国産大豆100%・天然にがり100%」という商品が並んでいるではないですか。してやられた、と思いました。すぐに我が社のスタッフにリサーチをさせたところ、ほかのスーパーにも同商品が並んでいることが分かりました。

N社は業界最大手です。消費者から見たら、無名の我が社よりも、N社ブランドを手に取りたいと思うに違いありません。規模もけた違いですから、我が社よりもはるかにコスト効率が良く、安い価格で提供できることでしょう。営業力ももちろん優れています。

勝ち目はないのか……?! 悔しい思いを抑えながら、私は、我が社のコンサルチームと弁護士を緊急招集し、対策を練りました。

我々の最大の特徴は、我が社だからこそできる、大豆畑を所有し、大豆を育てるところから大豆の選別まで、人の手を使って手間暇かけて最高の素材を使用していることだと明確に定義。さらに、中小だからこそできる、人の顔が見える営業、つまり、我が社の理念や方針を1件1件の顧客に知ってもらう活動を一層強化することだと討議しました。また、我が社の製法は特許も取得していたので、いざという時には武器としても使うことができるでしょう。

それから1カ月後の業界懇親会で、会場の中に、ダブルボタンのダークスーツを見つけました。私はN氏を目掛けて行きました。

「御社も豆乳製品を出したんですね。うちの商品が少しは参考になりましたか?」 嫌味を言ったつもりでしたが、N氏は「とんでもない、御社の商品は見たことも触ったこともありませんから。同じアイデアをお持ちだったとはこりゃ光栄です」。

煮えくりかえるはらわたを抑えるのが大変でした。「あの日あの時、私の目の前で試食をしたじゃないか!!」と喉から出かかりましたが、この時、特許を武器に使うタイミングだ、と確信しました。このままでは本当につぶされるかもしれない。中小企業が最大手に対して訴訟を起こすことは大変なことです。しかし早速、弁護士を通して訴訟に持ち込みました。草の根営業も地道に続けました。

N社が、「出来立て豆腐セット」を市場から撤退させることになった、という連絡を弁護士から受けたのは、数カ月後のことでした。

この事件から、我々は2つのことを学びました。

まず、特許取得は会社を守るということ。さらにグローバル展開を考えているなら、国際特許が必要でしょう。しかし、特許申請には特殊な知識と経験が必要です。我が社は、自社コンサル部門と連携している特許専門弁護士がいたからこそ、スムーズに事を進められたのです。

2つ目の学びは、自社にしかない特徴を徹底的に際立たせることです。特許申請したからといって安心してしまってはいけません。会社を守ることはできるかもしれませんが、会社の行方を本当に左右するのは、お客様からの信頼です。それは人の顔が見えるお付き合いがどれだけできるかにかかっています。ですから、自社ならではの差別化要素を核に、仕組みと人、この両面から、日々事業運営をしていくことが大切なのだと実感しています。

皆さんの会社に明日、大きな脅威が突如現れたら、どうしますか? 我が社の経験がきっと皆さんのお力になれると思います。明日は我が身。アクションは今、取るべきです。我が社のコンサル部門ではいつでもコンサルテーションを行っています。本日、是非、初回ミーティングのアポを取ってみてはいかがでしょうか。