前回は、スピーチの要であるストーリーを、五感に響くドラマに仕立て上げるために必要な、三幕構成と「9つのC」について解説しました。今回は具体的に、実際のスピーチを取り上げて、この三幕構成と「9つのC」がどのように組み込まれているか、解説してみたいと思います。

筆者が今年の6月に登壇した、TEDxWasedaUのスピーチを取り上げてみましょう。

「Living in the YES」と題したこのスピーチは、ネガティブ思考からポジティブ思考に転換することで、自分自身の限界を超え、更には不可能と思われることも現実に変えることができる、というメッセージを伝えています。

このメッセージを伝えるため、自身の留学時の苦労話でセットアップを行い、本題となる、IVF(人工授精)の体験という非常にパーソナルかつエモーショナルなストーリーにつなげています。

まず、オープニングでは、「自分の目の前で、扉が閉ざされてしまった、と感じたことはありませんか?扉を開けるのが怖いと感じたことはありませんか?」というパワフルな質問から入り、聞き手の注目を惹いています。

そして、その扉を開ければ先に進めるのに何かにブロックされて開けられない、その「何か」とはあなた自身の思考なのです、と、スピーチ全体で伝えたいOne BIG Messageにつながるステートメントを述べています。

次に、人の思考の大半はネガティブなものであるというリサーチデータを示しながら、「もし大半はネガティブな思考をまるごとポジティブ思考に転換できたら、あの扉の外には無限の可能性が広がる」というPromiseをし、そのPromiseを証拠づけるための2つのストーリーをお話します、と、スピーチのRoadmapを話しています。ここまでがオープニングです。

その次から2つのストーリーが始まります。

1つ目のストーリーは、初めて留学をしたときの英語面での苦悩と、それをどうやって克服したか、というストーリーで、先述のPromiseを強烈に証拠づけるための2つ目のストーリーの前座として紹介しています。

第一幕:ドラマのSet-upをする

  1. ①Curiosity(好奇心):「世界を見てみたい!」と思い立って行った先は、イメージとはだいぶ異なるセントルイス…。どんな話が繰り広げられるのか、まず好奇心をひきつけます。
  2. ②Circumstance(状況):英語へのコンプレックスとジレンマを持っていた状況を、感情表現と共に説明し、そんな中、学生寮のパーティーの場面が描写されます。
  3. ③Characters(キャラクター):学生寮の1年生、Nateが登場します。Nateはすでに泥酔しています。

第二幕:葛藤と変化のクライマックス

  1. ④Conflict(葛藤や障害):自分が持っていたコンプレックスにメスを入れられたかのようなNateの一言で、みんなの前で号泣してしまうという事態に。
  2. ⑤Cure(救世主):ところが傷つけた張本人のNateが発した「So What?(だから何?)」で大きな気付きを得ます。「できない、ダメだ、はずかしい」というコンプレックスは、自分自身のネガティブ思考の仕業でしかないのだ、と。
  3. ⑥Change(変化):自分の能力を制限していたのは自分自身に他ならない、と気付き、思考をポジティブに変化させていきます。
  4. ⑦Conversations in Dialogue(会話調の対話):Nateとの会話以外にも、「恥ずかしくたって、それが何だ!他の人の目なんて、それが何だ!」という自分自身の心の中の独白も、説明調ではなく会話調で表現されます。

第三幕:学びと気付き

  1. ⑧Carryout(実行、実現、学び):思考をポジティブ転換させたら、おのずと、行動に移すようになってきました。
  2. ⑨Callbacks(振り返り):想定外の人物であった酒飲みNateから学んだことを振り返ります。「自信喪失、疑問、不安などが襲ったら、So What?と自分に何度も問いかけ、思考を転換させて進むことだ」。

2つ目の大きなストーリーへの移行として、「しかしこの時点では、思考の転換が、ミラクルをも実現させるパワーがあるということにはまだ気付いていなかった」と語り、クライマックスを迎える2つ目のストーリーに期待感を持たせています。

さて、この2つ目のストーリーの9つのCはなんでしょうか?次回のコラムで解説しますので、それまでにみなさん、ビデオを見て2つ目のストーリーの9つのCを見つけ出してみてください!