ストーリーでメッセージを伝える

「ストーリー、ストーリー、ストーリー!!」スピーチの達人たちは口をそろえてこういいます。例えばパブリックスピーキングの大御所コーチであるパトリシア・フリップは、ストーリーが持つ力について次のように語っています。

“People resist sales presentation. But nobody can resist a good story…well told. A trivial story well told is much more memorable than a great story poorly told.”

また、1999年の国際スピーチコンテスト世界大会優勝者であるクレッグ・バレンタイン氏も、コーチングをする際必ずクライアントに尋ねるのは次のことだそうです:

“Forget about your speech for a moment. Tell me your story.”

人は誰しも、情報ではなく“ストーリー”に惹きつけられるものであり、素晴らしいストーリーを下手に語るよりも、ごくごく単純なストーリーを素晴らしく語ったほうが、人の脳裏に焼きつくものです。

それはビジネスにおけるプレゼンテーションでも同様です。自社の商品やサービスをアピールし顧客を説得したい場合、新たなコンセプトを理解してもらいたい場合、社員全体の士気アップや意識改革、行動喚起を行いたい場合、自社のビジョン・ゴールを投資家たちに伝えたい場合、などなど、データや数字、理論などの「情報」はなかなか心に刺さりません。しかし、伝えたい情報をストーリーに載せて伝えることで、途端にメッセージが生き生きと立体感を持って感じることができるようになり、ワクワクドキドキを体感したりしながら共感するのです。だからこそ、記憶に残りやすく、腹落ちしやすくなるのです。

ストーリーは、聞き手の興味をかきたて、情緒的にコネクトし、理解を頭から体に落とし込み複雑な内容もシンプルに説明することが出来、そして学びをも引き出す力を持っているものなのです。スピーチの成功はストーリー作りにかかっているといっても過言ではありません。

聴き手が共感する「4つのF」

筆者が日本人として唯一認定を受けているワールドクラススピーキングコーチの仲間でもあり、今年の8月にラスベガスで開催された国際スピーチコンテスト世界決勝で見事3位に入賞したマノジ・ヴァスデヴァンも、決勝スピーチをこんなストーリーで始めています。

“I was 24 years old living in India. I had a nice job. Nice car. Nice…hair..!. Still no girlfriend. Every relationship started with great expectation and ended with great depression. Have you had problems in your relationship? How did you fix it?”

いきなりストーリーで始まったこのスピーチは、冒頭から聞き手の心をわしづかみにし、その後続くストーリーの中に観衆を一気に引き込んでいました。

ここでストーリーを考える際のコツをひとつお伝えしましょう。それは4つのFです。

  1. ①Failures(失敗)
  2. ②Flaws(欠点)
  3. ③Frustrations(落胆、イライラなど)
  4. ④Firsts(初めての体験)

人は、他人の成功話よりも、失敗話や苦労話に共感するものです。壇上でスピーチをするだけで、なんだか自分とは違う「すごい存在」だから話には感化されるけれども所詮他人ごとだろう、と感じてしまいます。しかし自分の失敗談や欠点がもたらした出来事、落胆したこと、あるいは初めて何かを体験したときのこと、などを赤裸々に話すことで、「ああ、自分と同じじゃないか!」と共感することが出来るのです。

パーソナルストーリーを語ろう、というと、全くもって平凡な自分の人生、そんなに感動的なストーリーなんてない…と頭によぎってしまうかもしれません。しかし、4つのFなら、平凡な毎日の中にもたくさんストーリーの種が転がっていると思いませんか?

たとえば、朝の通勤時、ラッシュアワーの混雑した電車につぶされそうになる「平凡」で「つまらない」毎日…しかしそんな満員電車のFrustrationをネタに、なんとか人を掻き分け下車したときちょっとした開放感を感じるなら、「自分自身の可能性をおしつぶさずに、ドアを開けて開放してみよう」というメッセージにつながるストーリーをつむぎだせるかもしれません。

このように、どんなに平凡、退屈に思える日々の中からでも、必ず何らかのストーリーは見つかるものです。あなたにしか語れないストーリーをぜひ発掘してみませんか?

次回は情報をストーリーに、そしてドラマに仕立て上げるための「9つのC」についてお話します。