1月20日に、第45代米国大統領となったトランプ氏の就任式がありましたが、その就任スピーチはこれまで聞いたことのないような異例の演説でした。どんな点が異例だったのでしょうか。トランプ新大統領の就任演説をひもといてみましょう。

異例の言葉の選択

ワシントンポスト紙によると、トランプ新大統領は、大統領就任演説史上初めて下記のような単語を使用したとのことです。その多くは否定的・攻撃的・人種差別的なものでした:

Bleed(出欠する)、carnage(殺りく)、depletion(枯渇)、disrepair(荒廃)、flush(紅潮)、infrastructure(インフラ)、Islamic(イスラムの)、lady(レディー)、landscape(景観)、ripped(引き裂かれた)、rusted(錆びた)、sad(悲しい)、solidarity(結束)、sprawl(無秩序)、stealing(盗む)、stolen(盗まれた)、subsidized(補助を受けた)、tombstones(墓石)、trapped(閉じ込められた)、trillions(何兆もの・莫大な)、unrealized(未実現の)、unstoppable(制止できない)、urban(都会の)、wind-swept(風にさらされた)

オバマ前大統領の就任演説の際は、オバマ氏自身の強い意志で、アルカイダやイスラム国家をテロリストであると言及することは断固拒否したそうですが、トランプ新大統領は迷いもなく、

“we will reinforce old alliances and form new ones and unite the civilize world against radical Islamic terrorism, which we will eradicate from the face of the Earth(我々は従来の同盟を強化し新しい同盟を結び、文明世界を結束させて急進的なイスラムのテロリズムに反撃し、彼らを地球から撲滅させる)”

と、威圧感あるジェスチャーも交えながら語っており、戦闘的、攻撃的なまでの挑戦状とも受け取られるような内容です。

異例の国民へのメッセージ

歴代大統領の就任スピーチでも、現状や前政権を否定的に描き出したものはありましたが、共通していたのは、アメリカの歴史を振り返り、崇高な響きを持ちながら責務の重大さへの覚悟と信念を語り、アメリカ国民に対して希望を喚起するものでした。

しかしトランプ新大統領のメッセージは異なりました。言葉上では、Together, We, Our, Everyone, One, Allなどの単語を多発して、アメリカ国民の結束を促しているようにも見受けられるものの、「あまりに長い間、この国の首都の小さな集団が政府からの恩恵にあずかる一方、国民はそのつけを背負わされてきた」とあるように、強烈に分断されているアメリカ国民全体ではなく、工場閉鎖や海外に仕事を奪われた人々など、「つけを背負わされてきた」トランプ支持者にターゲットが絞られたメッセージになっています。

それは選挙戦中の演説のトーンとほぼ変わらず、人々の恐怖心をあおるダークなメッセージです。トランプ支持者たちは、ダークさが増せば増すほどトランプ氏を信仰していき、同時に反支持者たちは離れていく、という分断の亀裂をさらに深め、一方で、「支持者はついてくればいい」という姿勢なのではないか、という印象すら受けます。

異例の世界へのメッセージ

ここまでの排他的、自国至上主義的就任演説は本当に聞いたことがありません。「自身の国境を守ろうとせずに他国の国境を防衛してきた(ゆえに我々アメリカが犠牲になった)」「自国の軍隊の悲しむべき疲弊を許しておきながら、他国の軍を援助してきた(ゆえに自国の負担が莫大となった)」「米国のインフラが荒廃し、劣化する一方で、何兆ドルも海外につぎ込んできた(結果他国ばかりを裕福にしてきた)」などなど、いかにアメリカが海外の犠牲になってきたかを強調し、「アメリカ第一」を脅かすような世界のほかの国々はシャットアウトするという強硬姿勢です。世界平和はおろか、ただただ自国の利益のみを訴え続けました。演説の中でも「アメリカ」という言葉を34回も用い、ウォールストリートジャーナル紙によれば、58%の内容がナショナリスト視点のものであったと分析しています。

アメリカ国民に対して恐怖心をあおると同時に、世界に対しても、不安と恐怖心をかき立てるようなメッセージは、大統領就任演説では考えられないメッセージ性です。

就任したら実は変わって本領発揮するのではないか……という淡い期待を持っていた反支持者たちも、この就任演説で絶望感を感じたことでしょう。この先4年間、アメリカはどこに向かっていくのでしょうか……。

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