前回、発散的思考法と、収束的思考法を使い、たった一つのメッセージ(One BIG Message)から、聞き手にとって響くポイントとなる根拠を引き出していくロジカル手法をご説明しました。第一ステップでは発散的思考法でブレストをし、第二ステップでは、親和図を使いながら収束的思考法で、メインポイントとなりそうなアイデアをグルーピングし、各グループにタイトルをつけました。

メインポイントに仕上げるための最後のプロセスは、グルーピングしたアイデアを、分かりやすく、かつ意味合いの深い言葉へと言語化していくことです。

ここで、戦略コンサルタントならではのロジカル思考法を使いながら、メッセージを言語化していくプロセスを一緒に見て行きましょう。

メインポイントを更に網羅的に深める

例えば、One BIG Messageは、「A社の買収が我が社の中長期計画実現に必要」だとしましょう。そして、前回お話した、「発散的思考」と「収束的思考」から、下記の三つのポイントに絞り込まれた、と想定します。
One BIG Message:「A社の買収が我が社の中長期計画実現に必要」
ポイント1:市場シェアが10%減少
ポイント2:グローバル化に遅れ
ポイント3:A社とのシナジー効果

これらのポイントは、まだフレーズの状態で、メッセージにはなっていません。メッセージへと作り込んでいくには、これらのポイントを更に深めて考える必要があります。

そこで、戦略コンサルタントの玉手箱が登場です。MECE(「ミーシー」と読む)という思考法です。MECEとは、「各事柄間に重なりなく、全体として漏れがない」分類方法のことで、Mutual Exclusive Collectively Exhaustiveの頭文字をとったものです。戦略コンサルティングの業界では、調査項目や対象の選定、問題の所在の特定、課題解決のために必要な要素の抜き出しなど、網羅性が求められ、要因を漏れなく挙げつくしたい時に使われるロジカル思考法です。

たとえば簡単な例を挙げるならば、「人間」をMECEに切ったとすると、「男と女」、「10歳以下、10代、20代、30代、40代、50代、60代、70代、80代、90歳以上」などの切り方をすると、漏れもなく、重なりもなく、網羅的に「人間」を分類することができます。しかし「白人と黒人」と分けたらどうでしょう?白人と黒人以外の人間も沢山いるわけですから、漏れが沢山出てしまい、MECEにはなっていませんね。あるいは、「幼児、若者、大人、高齢者」という分け方はどうでしょうか?こちらは、各単語の定義も明確ではないため、重なりが出てしまうでしょうし、漏れも出てくることでしょう。やはりMECEになっていません。

MECEになっているかどうか確認しながら、演繹的に分類を行っていくことで、勘やひらめきによる分類よりも網羅性が高まり、思わぬ新アイデアが生まれる可能性も高まるのです。

このMECEな思考法は、スピーチの際にも大いに役に立ちます。各ポイントが、聞き手にとって納得感と深みのあるメッセージとして腹落ちするには、各ポイントの根拠のそのまた根拠を考えて意義を深め、それをひとつのメッセージにまとめ上げることです。

自分の通常の頭の枠内で考えていては思いつかないようなことが、実は相手に最も響くポイントだったりすることも多々あるでしょう。それはあなたにとっては意外だったり盲点だったりするかもしれません。それらも含め、網羅的に相手に響き得るメッセージを作り上げるために、MECEな思考法が大いに役立つのです。

さて、上記の例に戻りましょう。ポイント1は、「市場シェアが10%減少」、でした。つまり、「市場シェアが10%減少」しているということが、「A社の買収が我が社の中長期計画実現に必要」な根拠のひとつ、ということなわけですが、「市場シェアが10%減少」だけでは深みのある根拠に聞こえるでしょうか?ちょっと足らないように思いませんか?

では「市場シェアが10%減少」をもっと深めてみましょう。なぜ売上が10%減少したのでしょうか?MECEに考えてみます。例えば、市場環境全体を、「売り手」、「買い手」、「競争」、「市場参入障壁」、「代替品の脅威」という5つの切り口でMECEに切ってみましょう(実はここでも、コンサルタントが良く使うフレームワーク、“ポーターのファイブ・フォース”というフレームワークで、MECEになるように切っています)。すると、次のような要因が洗い出されます。
・競争の激化
・新規プレイヤーが続々参入
・消費者トレンドの変化
・当社にはR&D部門がない
・代替品が台頭しはじめている

日本語なら20ワード前後で言語化する

このMECEと思われる5つの要素全てが、「市場シェア10%減少」を裏付ける根拠である可能性が大きい、ということになります。

ではこれを、簡潔・明確な言葉でメッセージとして言語化するとどうなるでしょう? 言語化の際、気をつけたいのは、メッセージの長さです。英語なら10ワード以内を目標。日本語なら20ワード前後を目標としましょう。聞き手は文字を追っているわけではなく、あなたの口から発せられる言葉を聴いていますから、これより長くなると、印象に残りにくくなってしまいます。あなたならどのように言語化しますか?

下記に、言語化へのプロセスをまとめながら、言語化されたメッセージ例を示します。

One BIG Message:「A社の買収が我が社の中長期計画実現に必要」

ポイント1:「市場シェアが10%減少」
↓(ポイントを更にMECEに深める)
・競争の激化
・新規プレイヤーが続々参入
・消費者トレンドの変化
・当社にはR&D部門がない
・代替品が台頭しはじめている
↓(これらのMECEな要素をメッセージとして言語化する)
「市場の多角的な課題のため、シェアが10%減少している。」
このプロセスを全てのポイントごとに行い、意義のあるメッセージを作り上げていくのです。

次回は、人を説得するために必要な3つの要素についてお話します。