ビジネスは、毎日が問題解決の連続です。大なり小なり、ありとあらゆる所から降りかかってくる問題に対し、ビジネスパーソンは瞬時に判断を下し、前進していかなければなりません。しかし、経営について勉強したり、業務経験を積んだだけでは、「知識」や「勘」は身についても、「真の思考力」はなかなか身につかないものです。「真の思考力」とは「知識」や「勘」を上手に活用しながら、本質的な問題を探り当て、それを解決していくための「スキル」であるからです。

本コラムでは、戦略コンサルタントが日々活用しているロジカル・シンキング手法を基礎から紹介します。ロジカル・シンキング力を鍛えるための頭の体操や、アメリカを中心に起こっている出来事をケースとして取り上げながら、読者のロジカル・シンキング力を刺激していきます。

「重なりなく、漏れなく」- MECE

前回のコラムでは、本質的問題を発見し、正しい問題を解くために必要な4つの思考のスタンスについてお話しました。それらの4つの思考に基づいてロジカルに問題に対する原因や解決策を考える際、重複による時間のロス・効率低下や、漏れによる機会損失を回避するために必要な技法があります。それが、「MECE」(“ミーシー”と読む)です。

これは、「Mutually Exclusive Collectively Exhaustive」のそれぞれの頭文字を取った略語で、それぞれには以下の意味があります。

Mutually 互いに、相互に
Exclusive 排他的に(重複なく)
Collectively 集合的に、トータルに
Exhaustive 包括的な、網羅的な

つまり、「(各事柄の間に)重なりなく、(全体として)漏れなく」、各事柄が分類される方法のことを言います。

簡単な例から考えてみましょう。「人間」をMECEに切ってみたらどのように分けられるでしょうか。

「男」と「女」というように分類するなら、重なりも漏れもなく、MECEであると言えます。しかし、もしこれを「小学生」「中学生」「高校生」「大学生」「社会人」というように分類したらどうでしょうか。学校に通っていない幼児たちや若者、そして仕事を持っていない大人や高齢者、専業主婦など、たくさんの漏れが見られます。また、大学生でありながら社会人としおて働いている人もいるかもしれず、その場合、重複が考えられます。従ってこのような分類の仕方は、MECEではないということになります。

MECEに切り分けられていないと起こる不都合はいろいろとあります。例えば、ニューヨーク・トライステート・エリア(ニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州の3州)を管轄エリアとする営業所で、営業マンの担当区分を「ニューヨークに事務所を持つ顧客」、「ニュージャージーに事務所を持つ顧客」、「コネチカット州に事務所を持つ顧客」という分け方をしたとします。一見、MECEなように見えますが、ニューヨークとニュージャージーの両州に事務所を持つ顧客がいる可能性も大いにあります。そのような場合、ニューヨーク担当とニュージャージー担当との間でのお客の取り合いが起こったり、逆に、お互いがお見合いをしてしまって顧客をカバーできなくなる可能性もあります。両方の地域に担当者を配置したとしても、1社に対して複数の担当者が存在することでコミュニケーションの重複や複雑化などが発生し得ます。

担当区分をMECEに分けるのなら、たとえば「小規模顧客(昨年の年間売上高$○○未満)」、「中規模顧客(昨年の年間売上高$○○以上$△△未満)」、「大規模顧客(昨年の年間売上高$△△以上)」のように分けると、上記のような非効率的なことが発生しなくなるでしょう。

目的に沿ったMECEの切り口を見つける

注意したいのは、通常、ひとつの事柄に対してMECEな切り口は複数考えられるという点です。最初の例の「人間」を分類するのでも、「男」「女」のような性別分類のほかにも年齢別、人種別、出身地別、身長別、体重別…など、たくさんの切り口が考えられます。その際、何を目的として分類しようとしているのかを、まず考えるようにしてみましょう。

つまりポイントは、目的に適した切り口を選ぶことが、ロジカル・シンキング成功の鍵の第一歩となるということです。目的にそぐわない切り方をしてしまうと、たとえそれがMECEに切れていたとしても、ロジカルに分析を行い、結果を導き出すためには全く意味のない切り方なのです。従って、まずは問題解決の目的を明確にし、その上で、いくつかの異なる切り口を検討し、どの切り口がもっとも適しているかを検討する必要があります。

MECEに切り口を考えるコツ

適切なMECEな切り口を探すためには、下記のような考え方が役に立つでしょう。

1.反対・対称概念を組み合わせる
・男性と女性
・事実と認識
・現状と理想
など

2.時系列に従い、ステップ分けする
・R&D→ 調達→ 製造→ マーケティング→ 営業→ アフターサービス
・顧客誘導→ 注文→ 調理→ サーブ→ 会計
など

3.計算式にできないか考える
・売上高=販売価格×販売数量
・売上高=顧客単価×のべ顧客数
・利益=売上高-コスト
など

4.要素分解する
・4P (Product, Price, Place, Promotion)
・3C (Company, Competitor, Customer)
・各部門ごと
・各製品カテゴリーごと
など

どうしても切り口が見つからない場合は、要素を羅列したり、同じ仲間でグルーピングしたり、概念のレベル感をそろえたり、「その他」を入れてみたりしてもよいでしょう。

ロジカル・シンキングにおいて、MECEは非常に重要なポイントとなります。しかし、MECEであることに捉われすぎては本末転倒になってしまい、かえってロジカル・シンキングの妨げになってしまう可能性もあります。実際に100%漏れなく重なりなく何でも分類できるかというと、現実的にはなかなか難しいものです。あまりに細かい部分まで追求していると、逆に時間ばかりかかってしまい、非効率になってしまうからです。ビジネスでの問題解決にはスピードが大切です。ある程度はざっくりで構わないのだ、という姿勢で、スピード感を意識しながら効率的に進めていきましょう

MECEからロジックツリーへ「見える化」

では、ロジカル・シンキングを行うプロセスにおいて、このMECEをどのように活用したらよいのでしょうか。

まずその第一歩となるのが、ロジックツリーです。ロジックツリーとは、大問題から次の層をMECEに切り分けて分解した、論理を構成するツリー状のフレームワークです。たとえば、「ニューヨークからワシントンDCに行くにはどのような交通手段があるか?」というテーマに対するロジックツリーは、下記のようなイメージで展開できます。

図1:ロジックツリー
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ロジックツリーでは、おおもととなる課題から右に向かって枝分かれしながら、要素をMECEな切り口でどんどん分解していきます。ご覧いただいて分かるとおり、枝分かれしたそれぞれの段階での各要素は、それぞれMECEになっています。枝分かれを進めるに従って、課題に対して重要度の高そうな要素、低そうな要素が見えてきますから、重要度の高そうなところを更にどんどんとMECEに切って掘り下げていきます。

ロジックツリーのメリットは、図として「見える化」することで、複雑な構造もシンプルに表現することができることです。結果、問題の全体像が明確に把握でき、議論のズレを修正したり、表層に見えている問題から「真の問題」を発見する上で役に立ちます。そしてこのロジックツリーは、ビジネス上の問題解決をロジカルに行っていく際にその力量を発揮します。

次回のコラムでは、問題解決のプロセスに焦点を当て、上記でご紹介したロジック・ツリーを実際に使いながら、更にロジカルに思考を整理するためのコツについてお話します。

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