ビジネスは、毎日が問題解決の連続です。大なり小なり、ありとあらゆる所から降りかかってくる問題に対し、ビジネスパーソンは瞬時に判断を下し、前進していかなければなりません。しかし、経営について勉強したり、業務経験を積んだだけでは、「知識」や「勘」は身についても、「真の思考力」はなかなか身につかないものです。「真の思考力」とは「知識」や「勘」を上手に活用しながら、本質的な問題を探り当て、それを解決していくための「スキル」であるからです。

本コラムでは、戦略コンサルタントが日々活用しているロジカル・シンキング手法を基礎から紹介します。ロジカル・シンキング力を鍛えるための頭の体操や、アメリカを中心に起こっている出来事をケースとして取り上げながら、読者のロジカル・シンキング力を刺激していきます。

グローバルリーダーは「答え」を知っている必要はない

日本のビジネスパーソンは、「問題を発見して解決する能力に欠けている」と一般的によく言われます。それは、受験勉強などでも言えることですが、正しい回答をあらかじめ暗記して答えられる能力は身につけていても、根本的な「真の問題」がどこにあるのかということを考える癖がついていないことから来るものです。しかし、状況が頻繁に変化する今日のグローバル社会においては、あらかじめ回答を用意できるような問題はほとんど存在しません。ですから、リーダーは答えをあらかじめ知っていることが大事なのではありません。あらゆる難題に直面するごとに、「答えにたどり着くための思考プロセスを持っているかどうか」がグローバルリーダーに必要不可欠な能力ともいえるでしょう。その中でロジカル・シンキングは言語や文化の壁を超えて世界のどこに行っても通用する、いわば、世界共通言語なのです。

問題解決のプロセス

問題を解決するためには、まず、「解決すべき本質的な問題は何なのか」を正確に把握しなければいけません。その際、MECEやロジックツリーなどのツールを活用したロジカル・シンキングが、ビジネス上の問題解決の際に力を発揮するということを前回のコラムでもお話しました。

通常、問題解決は次のようなプロセスを経て行われます。

1) 目指す達成目標(ゴール)を明確に理解する
2) 目標達成するための阻害要因を深く理解し、解決策を立案する
3) 具体的な実行計画を作成する
4) 実行計画に基づき、徹底実施する
5) 進捗確認、評価を行う

ここで、もっとも注目したいプロセスは、2)です。
このプロセスは更に下記の図のように分けられます。

問題解決のプロセス
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「なぜ?」を最低5回は繰り返し、原因を掘り下げて本質的問題を探る

たとえば、あなたの会社が小売店で、「目指すゴール」が「(現在、コスト高であるため)自社を低コスト体質にする」だと仮定しましょう。

なぜ現在、コスト高になってしまっているのでしょうか?どこに一番無駄なコストが掛かっているのでしょうか?それを探し出すためにまず、前回のコラムでお話したロジック・ツリーを活用し、自社に発生するすべてのコストを分解します。そして最も大きな問題箇所、かつ、最も改善度が高い箇所を発見します。

問題箇所が特定できたら、次は解決方法を考える前のステップとしてその原因を掘り下げて、本質的問題を探っていきます。ここでもロジックツリーを使い、原因追及をしていきます。その際、問題の本質的な原因が明らかになるまで、「なぜ?」という問いかけを何回も繰り返すことが大切です。原因というのは、原因の原因があり、さらにその原因の原因があるもので、解決策というのは一番深い原因に対して立てないと意味がないからです。「なぜ?」を最低5回は繰り返すことではじめて、意義ある解決策が導き出されるのです。どのように問題を発見し、どのように問いかけをし、どのように答えていくのかという、解決策にいたる道筋を見出すための技術が問題解決のロジカル・シンキングです。

たとえば、前述の例において、特定した問題箇所は、「在庫管理費が高い」という点にあった、としましょう。「在庫管理費が高い」を基点として再度ロジック・ツリーを作り、各段階ごとに原因追求の「なぜ?」を繰り返して掘り下げていきます。そのプロセスの中で、これではない、これでもない、と切り捨てていき、原因の幅を狭めていきます。そうすると、以下のようなイメージのロジックツリーが出来上がるはずです。

そして、もしかしたらこれかもしれない、というものが見つかったら、次に解決策の仮説を立て、その仮説を実証するために証拠となるファクト(事実に基づいた情報)を集め、証明していくのです。具体的な仮説の立て方と仮説検証の方法については、来年に本連載コラムで解説していきます。まず、仮説検証の際に大切になるのは、「なぜ?(Why So?)」に加えて、「だから何なのか?(So what?)」という質問を問いかけるプロセスです。

グローバルで通用するロジカル・シンキング
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So What? Why So?

世の中にはさまざまな情報が氾濫しています。企業の課題に対して有益な情報を収集することは、戦略立案のための大切な第一歩になります。ところで、仮説を検証する際、或いは市場調査などの際にも言えることですが、皆さんは以下のことをしっかりと認識しているでしょうか。「その情報が本当に意義のある情報なのか?」「その情報から具体的にどのような意味合いや結論を引き出せるのか?」「引き出した結論は本当にそう言えるのか?」――。

たとえば上記の例で、在庫管理費が高い理由は、「適正仕入れ量の把握不足」が原因のため、ここを改善することが在庫管理費削減につながる、という仮説を立てたとしましょう。あなたは「適正仕入れ量の把握不足」がなぜ起こるのか、情報収集をするわけですが、その中で「適正仕入れ量の把握不足が起こっている店舗は、仕入れ担当者が新人の場合が多い」という情報を得たとします。そうすると、経験年数が原因のように見え、あなたは、

(課題) 「在庫管理費が高い」

(事実・情報1) 「適正仕入れ量の把握不足が起こっている」
(事実・情報2) 「把握不足が起こる店舗は、仕入れ担当者が新人の場合が多い」

(結論) 「仕入れ担当者を入社10年以上のベテラン経験者に変更することが望ましい」

という論理構成を立てようとするかもしれません。そうすると、在庫管理費削減のための解決方法は、人事を改善すること、となるでしょう。

ところが、実態は、経験年数ではない可能性もあります。表面的にはそう見えていたとしても、実はベテランが仕入れ担当する店舗がある地域では、物流センター側であなたの会社からの過去の発注実績をシステム化して把握しているところが多いため各商品の適正仕入れ量を提案してくれていたのかもしれません。一方、新人が担当している地域の物流センターではそのようなシステム化がされていないところが多かったのかもしれません。そうなると、原因は人事ではなく、物流センターのシステム化の問題、という可能性も出てくるわけです。

或いは、仕入れ量の把握不足が顕著でない店舗では、直属の上司が密接にチェックを行いながら指導をしているが、把握不足が多く起こる店舗では、上司がほとんど関与していない、という状況があるのかもしれません。その場合は、直属の上司の指導力を強化するためのトレーニングが必要、ということが解決策となる可能性もあるわけです。

従って、収集した情報と、出した結論を徹底的に照らし合わせ、「なぜそう言えるのか?(Why So?)」(各情報は、出した結論を明確に裏付けるものになっているか)、を徹底的に繰り返し、その上で「だから何なのか?(So What?)」(各情報から同じ結論が導き出せるか?)を問いかける、という作業が非常に大切です。このプロセスが不十分だと、不適切な解決策を立案してしまうことになる危険性があるのです。

つまり、上記の論理構成では、「なぜ?」の繰り返しが足らず、原因を掘り下げることができていなかったわけです。例えば以下のように論理構成ができればしめたものです。

(課題) 「在庫管理費が高い」

(事実・情報1) 「適正仕入れ量の把握不足が起こっている」
(事実・情報2) 「把握不足が起こる店舗は、仕入れ担当者が新人の場合が多い」
↓なぜ?(Why So?)
「ノウハウが少ない人材が仕入れ担当者になっている」
↓なぜ?(Why So?)
「仕入れ量判断のノウハウ習得は、OJTにて現場の上司から部下へ教育されているが、その質が均一でない」
↓なぜ?(Why So?)
「現場の上司の、部下への教育スキルが不足している」
↓なぜ?(Why So?)
「自社の研修プログラムは、専門スキルベースのものがほとんどである」
↓だから何なのか?(So What?)
(結論) 「上司が効果的に部下を教育するための研修を新たに導入することで、上司の指導力を高め、担当部下の仕入れ量把握の向上を図ることで在庫管理費の高さを改善する。」

この論理構成はあくまで一例ですが、「なぜ?(Why So?)」と「だから何なのか(So What?)」のプロセスを経て課題を掘り下げることで、実際の結論は、実は当初正しいと考えていた結論とは異なるところに隠れていた真の解決策を見つけることができるのだ、ということがお分かりいただけるかと思います。

次回のコラムでは、「So What?」と「Why? So?」についてさらに詳しく見ていきます。

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