ビジネスは、毎日が問題解決の連続です。大なり小なり、ありとあらゆる所から降りかかってくる問題に対し、ビジネスパーソンは瞬時に判断を下し、前進していかなければなりません。しかし、経営について勉強したり、業務経験を積んだだけでは、「知識」や「勘」は身についても、「真の思考力」はなかなか身につかないものです。「真の思考力」とは「知識」や「勘」を上手に活用しながら、本質的な問題を探り当て、それを解決していくための「スキル」であるからです。

本コラムでは、戦略コンサルタントが日々活用しているロジカル・シンキング手法を基礎から紹介します。ロジカル・シンキング力を鍛えるための頭の体操や、アメリカを中心に起こっている出来事をケースとして取り上げながら、読者のロジカル・シンキング力を刺激していきます。

前回コラムのブレーン・ティーザー解説

「世界中で、ホテル使用サイズのシャンプーとリンスは1年間にそれぞれ何本消費されているか推測しなさい」

1)考え方のアプローチ
経営における正しい判断が必ずしも一つとは限らないように、ケース問題も、実は一つの正しい答えというものはありません。目的は、自分なりの答えにたどり着くまでの柔軟な思考回路を訓練することにあります。そのためには、まず、勘を働かせ、正しい方向性だと思われる「仮説」を立ててみます。そしてその仮説を「検証」し、最終的に納得のいく判断を下す、というプロセスです。

下記はあくまで考え方の一例ですので、これ以外にもたくさんのアプローチがありうる、ということを申し添えておきます。

2)仮説を立てる
まず、ホテルサイズのボトルが、(1)ホテルなどの宿泊施設への供給、(2)ギフトパックやサンプル用、の2つの目的のためだけに使われると仮定してみましょう。

次に、シャンプーとリンスを提供している世界の宿泊施設の数を推定してみます。

世界の約 150 カ国で、国別平均20カ所の主要都市やリゾートが存在し、更に各都市40の宿泊施設がサービスを行うと仮定すると、世界で

150×20×40=12万カ所

の宿泊施設がその対象となります。

次に、1年間に各ホテルでボトルが消費される回数を推定してみましょう。

各宿泊施設の平均部屋数を200とし、その平均稼働率を70%と仮定すると、

12万カ所×200×70%×365日=約61億回

となります。ここで、1回につき1本の計算で単純に61億本ずつ消費される、と結論を出すこともできます。

しかし、ゲストの約2割くらいは、自分でシャンプーとリンスを持参しているかもしれません。そうすると、

61億本×(1-0.2)=48.8億本

という計算になります。

さらに、連泊するゲストは、2日に1本ずつの割合で消費すると考えるのが現実的かもしれません。平均宿泊日数が2連泊だと仮定すると、消費本数は

48.8億÷2=24.4億本

となります。更に、必ずしもリンスを使わない人もいるでしょう。シャンプー1本に対し、リンスの使用率は0.5本、つまり2:1の割合で使用されると仮定すると、シャンプーの本数は24.4億本、リンスの本数はその半分の12.2億本となり、これが世界中の宿泊施設で消費される数の概算、となるわけです。

そして二つ目の使用目的、ギフトパックやサンプル用は、宿泊施設での使用本数の約10%だと仮定してみましょう。すると、上記で算出した本数の1割増しが、世界中で1年間に消費されるスモールサイズのシャンプーとリンスのそれぞれの総本数ということになります。結果、

シャンプー:24.4億本×1.1=約26.84億本
リンス:12.2億本×1.1=約13.42億本

ということになります。

3)仮説検証
仮説検証は、事実に基づいた、仮説の整合性のリアリティーチェックです。最大の規模を誇るオンラインホテル予約サイトのひとつ、Hotels.comでの世界の取り扱いホテル数は約13万軒。また、世界のホテルの平均稼働率は、70%台前半位、とのこと。従って、上記の仮定は比較的現実的な数字に近いと推定できるでしょう。更に、ボトル1本の販売価格が1ドルだとすると、仮説で出した、シャンプー26.84億本+リンス13.42億本=40.26億本の世界市場の規模は約40.26億ドルだ、ということになります。

もし最初の仮説の検証が難しいようならば、仮説を再度立て直し、検証を繰り返していきます。つまり、仮説の立て方次第で、問題解決に近づくことができるかどうか、が決まってくるわけです。

さて、「仮説」、「仮説検証」など、聞き慣れないかもしれない単語を先に使用しましたが、前回のコラムで触れたとおり、ロジカル・シンキングのプロセスでもっとも重要なのは、「本質的問題を発見」し、「正しい問題(=本質的問題)を解く」、ということでした。ビジネス上の問題は、通常、いろいろな形でいろいろなところに隠れ潜んでいるものです。だからこそロジカルに問題解決を行うためには、まず、最も重要な本質的な問題は何なのかを見つけ、それに対する解決策を作っていくことが重要なのです。

ではどうやったら、「本質的問題を発見」し、「正しい問題(=本質的問題)を解く」ことができるのでしょうか。

4つの思考のスタンス

まずは、次の4つの思考のスタンスをロジカル・シンキングを始める基礎として持つことが大切です。

1)ゼロベース思考
「本質的問題」を発見するためには、上司やチームメンバー、顧客などから挙げられた「問題」をそのまま「本質的問題」だと鵜呑みにしてはいけません。また、環境変化の激しい今日においては、「昨日の当たり前」は「今日の当たり前」ではなくなっているかもしれません。固定概念を払ってゼロベース思考に戻し、言われたことが本当に正しいかどうか、日ごろから考えるようにする癖をつけましょう。ゼロベース思考をすることによって、それまでよりも思考の枠が広がり、それまでは考えもつかなかった解決方法を見出せる可能性が高くなります。

2)フレームワーク思考
物事を考える際、闇雲に考えると、重要なことが漏れていたり、実は重複していたり、という事態に陥ってしまうことが多々あります。課題に対し、漏れなく重なりなく、あらゆる切り口を考え、ロジカルに解決方法を見つけ出していくためには、課題ごとに適切なフレームワークを活用することが功を奏します。具体的なフレームワークについては本連載コラムで徐々に触れていきます。

3)仮説思考
あらゆる切り口を万遍なく考える、といっても、可能性の低そうな事項まで含め、全てを網羅的に検討することは非効率です。また、闇雲に行動することも非常に非効率です。「正しい問題」を効率よく見つけ、最善の解決方法発見に近づくためには、簡易調査結果や「経験」や「勘」も存分に働かせ、本質的問題や解決方法についての仮説を立て、その仮説が正しいかどうか、検証する、という思考が大切です。

もちろん、検証の結果、その仮説が間違っている可能性もありますから、その際には最初の仮説を崩し、新たな仮説を立てなおす勇気を持つことも大切です。またこの仮説思考において大切なことは、仮説検証に時間をかけすぎたり、完璧を求たりしない、ということです。それは、仮説が100%正しいことを証明することが目的ではなく、本来の目的は、仮説の積み上げによって、最善な対応策に限りなく近いものを迅速に導き出す、という点にあるからです。

4)ポジティブ思考
そして最後に、ポジティブ思考。基本的に問題は解決できるのだ、そして現在よりも良い解決方法は存在するのだ、という前提の下に考えるということです。現状が「仕方がない」と言ってしまったら、その時点で思考は停止してしまい、解決できる問題も解決できなくなってしまいます。すべての問題には解決策がある、というポジティブな思考を持ち、今よりも必ず良くなると信じて、考え、行動することが大切です。

次回のコラムでは、ロジカルに思考を整理するためのツールについてお話します。[/av_textblock]