10月26日と27日の2日間にわたり、筆者はスピーチブートキャンプに参加してきました。これは国際スピーチコンテストの2001年世界チャンピオンで、スピーチ界で一番人気のコーチであるダレン・ラクロイを中心に、彼のコーチだったという1995年世界チャンピオンであるマーク・ブラウン、さらには、ウィル・スミスなどをコーチングする、ハリウッド映画のスクリプトコンサルタントであるマイケル・ヘイグの3名による、丸々2日間のブートキャンプです。

このブートキャンプでは、希望者(5名まで限定)は初日に自分のスピーチを参加者全員の前で発表し、その場で3人から約1時間にわたるコーチングをみっちり受け、そのアドバイスをもとに一晩でスピーチを改善して2日目に再度発表し、さらにまた約1時間コーチングを受ける、というもの。もちろん、3人のコーチのほかに、参加者たちからもいろいろなフィードバックがあり、インターアクティブかつ白熱したセッションが繰り広げられます。

通常は筆者もスピーチコーチとして、日本人グローバルリーダーがさらに国際舞台で飛躍できるよう、コミュニケーションのお手伝いをさせていただいていますが、今回は自分自身も進化すべく、立場を180度変え、「希望者」として登録し、特訓を受けました。

改めて、コーチの価値を再認識した2日間でした。どんなにレベルが上がってきたとしても、自分自身では気づかないポイントはたくさんあります。

例えば、コーチからいろいろな角度で質問をされることで、テーマを掘り下げていくことができたり、自分自身には当たり前のことでも、聞き手の立場で聴いてみると、まったく当たり前ではなかったり、違和感があったり、また、自分が伝えたいと思ったメッセージが実はその通りに伝わっていなかったり、というケースは多々あります。

今回、世界トップレベルの3人の異なる視点からアドバイスを受けることができ、筆者自身、スピーチコーチとしての視野も深められたと同時に、現役スピーカーとしてもまた一歩前進できたように思います。今回アドバイス受けた中で、すべてのスピーカーに共通して役に立つと思われるコツを共有したいと思います。

改めて肝に銘じた3つの「すべき」と2つの「すべからず」

スピーチを行う際に心がけるべきポイントは山のようにあるのですが、その中でも筆者にとって今回改めて肝に銘じたのは下記の3点でした。

①どんなスピーチでも、聞き手の感情を引き出すべし!

人は感情の生き物です。どんなに正確なデータや事実、論理があったとしても、それだけでは人の心は動きません。どんな内容・目的のスピーチであっても、たとえそれが学会での研究発表であったとしても、感情を引き出すストーリーがあって初めて聞き手の興味を引き、共感を呼び起こし、強い印象を与え、メッセージを記憶に残し、行動や意識改革につなげることができるのです。そして感情を引き出す方法はたった1つ。「ストーリー」です。

今回のコーチング「希望者」には、医師が2人いました。初日には事実・データ満載で、スピーチ内にストーリーを組み込むことに抵抗を感じていたお2人でしたが、通常慣れ親しんでいる自身の安全圏を思い切って飛び越え、ストーリーを描いた2日目にはがらりと印象が変わり、伝えるポイントは全く同じでも、説得力と共感力が何倍にも跳ね上がっていました。

②スピーチ全体を通して伝えたいことをピンポイントに絞り込むべし!

スピーチには必ず、全体を通して一貫して伝えたいメッセージと、それをサポートするいくつかのポイント(サブメッセージ)があります。ブレイクスルースピーキングでは、前者を「One BIG Message」、後者を「Main Point」と呼んでいます。今回のブートキャンプでは改めて、「One BIG Message」を引き出すことの重要さと難しさを認識しました。

例えば、「オーセンティックな自分をさらけ出すことが大事」というメッセージがOne BIG Messageだと考えているとしましょう。しかしスピーチ内では「今の自分を愛そう」「不完全な自分を受け入れることで自己肯定感が高まる」「弱みを受け入れることで強くなる」「どうやったらオーセンティックになれるのか」などなど、微妙にニュアンスが異なる表現が散在していたとしたら、明確なメッセージは当然伝わらず、印象が薄くなってしまいます。筆者がクライアントをコーチングをしている時にも、このようなケースは頻繁に見られます。

実際のケースをお話しします。冒頭では「わが社の観光パッケージの良さをお伝えします」と言っていたのが、最後には「わが社の観光パッケージはエージェントの皆さまに利益を生みます」で終了しており、伝えたいのは「(旅行者にとっての)パッケージ内容の良さ」なのか、「(エージェントにとっての)利益率・事業性の高さ」なのか、2つの異なるメッセージが存在してしまっていただけでなく、メッセージを訴えかけるターゲットまでずれてしまっていたことにまったく気づいていなかった、というケースがありました。このように書いてみると、このズレが明らかなように聞こえますが、「自社商品・サービスの良さはたくさんあるから全部伝えたい!」と頑張れば頑張るほど、実はメッセージの幅が広がり過ぎてしまって、効果を大きく損ねてしまう、ということは日常茶飯事です。

伝えたいOne BIG Messageは何なのか。ターゲットもメッセージも絞り込み、具体的にイメージできるレベルにまで落とし込むことができているか、スピーチを構築していく段階で常に意識していることが大切です。

③自分らしさを見つけること!

「ナツヨイズム」という言葉で表現されていましたが、自分自身のスタイルを見つけることで、ほかの人にはまねのできない、ユニークかつ価値の高いスピーチに仕上げることができます。自分自身のスタイル、とは、デリバリースタイルももちろんですが、自分らしい言い回し、ほかの人にはない視点や体験の共有などから構築されるものです。ですから、憧れのスピーカーの原稿をまねたりスタイルをまねることは、ある程度の参考にはなるかもしれませんが、「人のまね」で価値を生み出すことはできません。

筆者もクライアントをコーチングする場合、この点に非常に留意してコーチングしています。筆者には自然な言い回し・スタイルでも、クライアントがそのまま原稿に取り入れてみると、なんとなくしっくりこない、というような場合、クライアント自身の言葉で、どのように表現できるのか、どうしたら自然に口をついて出るのか、それを一緒に探っていきます。

一方、やってはいけないポイントも山のようにあるのですが、今回改めて肝に銘じたのは下記の2点でした。

①スピーチの最大の敵は無変化

声のトーン、緩急のつけ方、表情、さらには場の使い方、などなど、変化が見られないと聞き手はすぐに飽きてしまい、眠気が襲ってきます。聞き手の興味を引き続けるためには、あらゆる側面からスピーチに「変化」をつけるよう心がけましょう。

②ナレーションになっていないか?

ストーリーを生き生きさせる要素はたくさんありますが、その大きな要素のひとつに「ダイアログ」があります。つまり、登場人物のセリフを、セリフとして語る、ということです。「山田さんはその時私に、リーダーシップには決断力が必要だと教えてくれました」と表現すると、ナレーション風ですが、これをダイアログ風に改善するならば「山田さんはその時私にこう言いました。“リーダーシップに必要なものは何だと思う? 決断力なんだよ”」となります。

ナレーション風にストーリーが語られると、ストーリーと聞き手の間に距離感が感じられるものですが、ダイアログにしたとたん、聞き手がそのシーンに居合わせているかのような現場感を得ることができるのです。ダイアログ調でストーリーが展開するからこそ、シーンが生き生きとし、感情を引き起こすことができるのです。

来月、12月はいよいよ、ブライアン・トレーシーと信元、そして多くのビジネス有識者たちとの共著本、『The Success Blueprint』が出版されます。来月のこの連載コラムでは、信元担当の章の一部をご紹介いたします。

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