過去にあなたがとても共感したストーリーを思い出してみてください。TEDのスピーチ、スティーブ・ジョブズなど各界の著名人のスピーチ、あるいは身近な人が行ったプレゼンや、お気に入りの映画でも構いません。どんなストーリーの流れだったでしょうか。

成功の裏には必ず失敗や苦悩がある

例えば、Facebookなどでも大変話題になった、植松努さんのTEDのスピーチ。植松さんは、マグネットという低電圧電磁石システムを設計・製作・販売する民間の小さな会社を経営する傍ら、ご自身の夢であったロケット開発にも、会社として全力で取り組んでおられます。世界に3つしかない、そして日本では植松さんの会社にしかない、微小重力実験棟を建設し、世界からも大きな注目を集めており、みなさんも、成功と夢を手中に入れている素晴らしい会社の社長、という印象をお持ちになるのではないかと思います。

聞き手である我々は、植松さんが手中に収めた成功の秘訣をぜひ知りたいと思うでしょう。しかし実際に心が動かされるのは、本当に「成功の秘訣」そのものでしょうか。植松さんのスピーチをよくひもときながら聞いてみてください。

植松さんのスピーチでは、「どうしたら成功するか」という秘訣よりも、ご自身の辛かった体験談にフォーカスを当てて話が進められているのです。

生まれて初めての会社経営で大成功の末大失敗し、2億円もの借金を抱えてしまったこと。小学校に上がってすぐ先生に嫌われ、抱いていた夢に対して、「どうせ無理」と言われ、一人ぼっち孤独であったこと。そして自信と可能性が奪われてしまったこと。そしてそんな体験から、人が楽ちんになるために便利で簡単な「どうせ無理」という言葉をなくせば、どんなに世界がよくなるだろう、と身をもって知ったこと、を植松さんは聞き手に繰り返し繰り返し伝えます。植松さんの人生における、数々の苦悩のストーリーを聞いているうちに、聞き手の心は植松さんの虜になってしまいます。

そうです、人が心を動かされるのは、今の成功の裏にあった苦悩や失敗談なのです。

人の心を動かす4つのF

ではあなたの普段のビジネスプレゼンを考えてみましょう。我が社の製品がどれほど素晴らしいものか、我が社はどれほどグローバルに活躍し成功している会社か、いかにあなたの会社の助けになるか…。「成功話」にフォーカスしていませんか? もちろんビジネスでは、自社や自社商品・サービスを売り込むため、相手が獲得する「ベネフィット」にフォーカスする必要があります。

しかし相手を「その気」にさせるためには、「いかに良いか」だけにフォーカスしていては成功しないのです。聞き手が苦労しているであろう事柄・課題・問題意識を察知し、いかに我々もその苦労を経験してきたか、そこからどんな失敗やフラストレーションを経て解決策を見出してきたのか。そこを語ることで、「この人は/この会社は我々の苦労を分かってくれる」と共感し、人の心が動くものです。

Breakthrough Speakingでは、いかなるストーリーにおいても「4つのF」のいずれかの要素を組み込みましょう、とお伝えしています。その4つのFとは次のとおりです。

①Failures (失敗、過ち)
②Flaws (欠点)
③Frustrations (フラストレーション、不満、苦悩)
④Firsts (初めての体験)

プレゼンテーションと言うのは、人と人との心のつながりを作るものです。心を動かさない単なる情報提供なら、資料を配布して読んでもらえばよいのです。わざわざ「人」が「人」に向かって、「言葉」というアナログな方法でコミュニケーションするのは、心のつながりを求めるからです。

そして人は、お互い何かが足らないからこそ惹かれ合うものです。大成功を収めて完璧なように見える人の話は、自分とは遠い存在としてしか見えません。しかし、上記の4つのFのような失敗談を聞くと、親近感が湧き、「自分にもできるかも」「それをやってみよう」と思うようになるものです。

みなさんが次回行うプレゼンでは、ぜひ4つのFを探してみてください。