こんなことを聞いた経験、思った経験はありませんか?
「そんな正論言われたって!!!(怒)」
「感情的になるなよ!落ち着いて話そうよ…」
「同じものを買うんでも、あのセールスマンからは買いたくないな」

頭ではそうだと思っても心がうなずいてくれない、あるいはその逆、などなど… 人を完全に説得するのはなかなか難しいものです。「何か」が欠けていると、人はその気になれないのです。

アリストテレスの3つの説得の要素

ではその「何か」とはなんでしょうか。その解はアリストテレスにあります。哲学なんて小難しい、と思わずに気楽に読んでみてください。

人が説得されるためには、3つの要素が全てが揃う必要がある、とアリストテレスは説きました。その3つとは、
・エトス:倫理的アピール
・パトス:情緒的アピール
・ロゴス:論理的アピール
です。

どんな素敵な企画や商品であっても、人間同士がコミュニケートしているわけですから、内容に対して論理的には賛同できても、人として賛同できないという事もあるでしょう。まず、あなたの価値観と経験を共有することで、聞き手とつながるのです。そうすることで、まず、「エトス:倫理的アピール」が構築されます。もちろん、あなたの日々の行動や姿勢の積み重ねも、「エトス」を構築する上で大切です。

更に、人間関係が形成されており、論理的なプレゼンであっても そこに聞き手の感情をゆさぶる熱意が込められてなければ、聞き手の行動喚起や意識変革にはつながりません。事実だけで人を説得することは出来ませんから、信頼と心の琴線に触れることで、事実を補ってあげる必要があるわけです。それが、「パトス:情緒的アピール」です。

しかし人間関係が形成されており、聞き手の感情をゆさぶる溢れんばかりの熱意が込められていても、論理的説明ができない時点で、あなたに事を任せよう、とは思ってもらえません。「私を信じてください!精一杯がんばります!」とパトス全開でアピールされても、信じるに値する裏づけがなければ任せる気にはなりませんよね?根拠を提供しながら主張を明確にする論理的な要素は、いかなるプレゼンテーションにも必要です。これが、「ロゴス:論理的アピール」です。

3つの要素を網羅して勝ち得た日本のオリンピック招致プレゼン

少し前になりますが、日本がオリンピック開催を勝ち得ることとなった、数々の招致プレゼンは、メディアでも取り上げられ、有名になりました。中でも、「お・も・て・な・し」は流行語にまでなりましたね。しかし、日本が勝った大きな要因のひとつは、プレゼンター一人ひとりのスピーチが、パワフルだったことももちろんですが、チーム全体として、エトス・パトス・ロゴスが非常にバランスよく配分されていたことにある、といえるでしょう。

例えば、パラリンピックの佐藤真海選手のスピーチは、彼女にしか語れないパーソナルストーリーでエトスをすぐに構築したと同時に、苦悩と希望のコントラストを見事に使い分け、聞き手の感情を大きく揺さぶりました。パトスです。

安倍総理のスピーチでは、各国が懸念しているであろう放射能の件についてあえて触れ、日本の取り組みを明確に示すことでまず安心感・信頼感を構築しています。エトスの構築です。それと同時に、総理と言う立場でなくオリンピックを敬愛する一個人としての経験を語ることでパトスを構築し、最後には日本のリーダーとしての大きなビジョンを掲げてパトスを更に強化しています。

竹田招致委員会理事長のスピーチはどうでしょうか。まず、「倫理的に信頼できる国、日本」というイメージを前面に押し出して、エトスを強調、更に、なぜ日本が信頼に値するのか、その具体例を、財政面や成功事例、経験など、論理的にポイントを挙げてロゴスを印象付け、その上、「Dear Friends. That Feeling. That’s only sports can give, touches the whole world.」と、聞き手全員に好意的な感情を呼び起こし、見事なまでの説得力です。

エトス・パトス・ロゴスがチーム全体にバランスよく配分されているのがお分かりかと思います。みなさんがスピーチで実践される場合、もちろんシチュエーションや、聞き手がどんな人たちか、によって、パトス(情緒的アピール)の配分が高いケース、または、ロゴス(論理的アピール)の配分が高いケース、などあるでしょうし、そのバランスは変えるべきです。しかし、かならず、この3つの要素が入っていることで、説得力は確実に高まる、ということを覚えておいてください。