ビジネスは、毎日が問題解決の連続です。大なり小なり、ありとあらゆる所から降りかかってくる問題に対し、ビジネスパーソンは瞬時に判断を下し、前進していかなければなりません。しかし、経営について勉強したり、業務経験を積んだだけでは、「知識」や「勘」は身についても、「真の思考力」はなかなか身につかないものです。「真の思考力」とは「知識」や「勘」を上手に活用しながら、本質的な問題を探り当て、それを解決していくための「スキル」であるからです。

本コラムでは、戦略コンサルタントが日々活用しているロジカル・シンキング手法を基礎から紹介します。ロジカル・シンキング力を鍛えるための頭の体操や、アメリカを中心に起こっている出来事をケースとして取り上げながら、読者のロジカル・シンキング力を刺激していきます。

慣れ親しんだものからの脱却を図る「So What?」「Why So?」

前回のコラムでも解説したとおり、「だから何なのか?」「なぜそう言えるのか?」を繰り返して本質的な原因を追究していく作業を、「So What?」「Why So?」と呼びます。この「So What?」と「Why So?」を繰り返すプロセスは、ロジカル・シンキングを使って本質的な問題を見つけ出し、解決方法や具体的な実行計画を策定していくために、非常に大切な要素です。

競合相手に対して優位性を構築するための施策が、「なぜ?」を1、2回たずねた程度で出てくる答えであったとしたら、競合相手もすぐに真似をすることができ、簡単に追い抜かれてしまいます。大きな優位性を生み出す原動力となるのは、「今までの取り組みの改善型」ではなく、「まったく新しい戦略的な取り組み」であるはずです。そのような戦略は、今まで慣れ親しんだ情報でまかなうことのできるものであるはずがありません。

人間は誰しも自分の関心ごとや、自分が日ごろ慣れ親しんでいる文脈に沿って物事を解釈しようとする傾向にあります。しかし、ある情報が示す事実を相手も同じように観察しているとは限らないのです。特に、価値観の異なるグローバルチームなどにおいては、自分の「当たり前」は通用しません。ですからから、「わざわざ『So what?』を伝えなくても見ればわかる」と思っていると、それは大きな落とし穴となってしまいます。

「So What?」と「Why So?」を繰り返すプロセスは、課題の当事者たちに共通の理解を持たせるだけでなく、更に本質的問題の核心へと課題を深堀りしていくことを助けてくれます。

観察の「So What?」と洞察の「So What?」

ところでこの「So What?」「Why So?」には2種類あります。

一つは、状況を示すデータから要するにどのような状況なのかという要点を、また、やるべきアクションの説明から要するにどのようなアクションをすべきなのかという要点を抽出すること。すなわち、状況なら状況、アクションならアクションと、同じ種類の情報の中から要点を抽出する作業のことを、「観察のSo What?」といいます。「観察のSo What?」では提示した事実を全体集合としてそこから言えることを要約し、「観察のWhy So?」では要約された観察結果を要素分解して検証します。

もう一つは、ある状況を示す複数のデータの中から、そこに存在するであろう一定のルールや法則性を導き出したり、自社として取るべきアクションや自社にとっての影響を考えること。このように、ある情報からそれとは種類の違う情報を引き出す作業のことを、「洞察のSo What?」といいます。「洞察のSo What?」では、「観察のSo What?」を基に一定の法則性を導き出します。「洞察のWhy So?」では、「観察のWhy So?」が答えとなっています。

つまり、「観察のSo What? Why So?」は、そこにある事象や事実のポイントを正確に説明するのです。これに対し、「洞察のSo What? Why So?」は、それらの事象や事実を踏まえ、そこから引き出せる引き出すことのできる意味合いや共通項、メカニズム、などを浮き彫りにするもの。後で学ぶ仮説設計の作業は、「洞察のSo What?」の一種です。

たとえば、以下のような演繹法の代表例である「三段論法」は「観察のSo What?」です。

  1. ほ乳類は母乳で子を育てる
  2. ネコはほ乳類だ
  3. だから、ネコは母乳で子を育てる

これに対し、「洞察のSo What?」は下記のような例です。

A社:3年ほど前から売上が順調に拡大。その中で、和風風味のパスタソースが年配層向けの通販カタログを中心に支持され、収益の柱になっている。
B社:コンビニで手軽に買えるイタリアン家庭料理風のパスタソースが独身女性を中心に大人気。売上全体の半分以上を占めるまでに急成長し、B社の売上の伸びに大きく貢献している。
C社:高級食材店チャネルに限定した高級料理店シェフがプロデュースしたパスタソースが都市部でシェアを伸ばし、売上の4割を占める商品に成長、C社の売上に貢献している。
結論:各社とも、明確なターゲット設定と販売チャネル、そして特徴を際立たせた商品の展開に絞り込むことで売上げ拡大に成功している。

「洞察のSo What?」では、与えられた3つの情報が「観察のSo What?」になっており、それらを積み重ねて導き出すことのできる「意味合い」が結論となっていることがお分かりかと思います。

「So What?」「Why So?」をより強くするポイント

たとえば、「市場は変化している」とか、「競合他社は市場の変化に対応している」「当社は市場の変化に対応できていない」というような「So What?」をしては意味がありません。なぜなら、市場がどのように、何から何に変化しているのか、競合は具体的に市場のどのような変化にどう対応しているのか、当社は具体的にどうなっていて、その取り組みは市場の変化とどのように乖離しているのか、がまったくわからず、受けてはもう一度「それって具体的にどういうこと?」と頭の中で考えなければならなくなるからです。

「So What?」「Why So?」をより強くするには、下記の点に留意しましょう。

まずは課題(テーマ)の確認をする
「So What?」を導き出すべき課題は何か、全体像をしっかりと見極めて、出発点を定めましょう。課題を間違えてしまうとあさたっての方向に「So What?」してしまうことになります。

「Why?」を複数回尋ねて「Why So?」しながら「So What?」を考える
目的に対して、何らかの結論に達したと思っても、そこで思考を止めず、さらに考え続けることが大切です。「Why?」を問い続けることで、それまで見えなかった問題や課題の真因にたどり着くことができるからです。当たり前なことでも問い続けることで、意外な発見があったりします。また、問い続けることで、考える力や考える習慣がついてくるものです。

相手が具体的にイメージできるように「So What?」する
「So What?」 は「それって具体的にどういうこと?」という質問に答えるものです。ですから、あなたが導き出した「So What?」を聞く・読むことによって、その事実を見ていない相手があなたの洞察したように事実を描くことができる、すなわち、具体的に絵を描くようにイメージできることです。

次回はいよいよ、仮説思考についてのお話に入りましょう。

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