海外で通用するパブリックスピーキング、というと、英語を勉強しなければ!と考える人が多いものです。しかし、ノンネイティブである私たちにとって、ネイティブと対等に話せる英語力を養うのは至難の業。一方でパブリックスピーキングは、習得しうる“スキル”です。

パブリックスピーキングの極意は、聞いている相手がたった一人の営業相手でも、何百人の聴衆でも、彼らの心を捉えて離さず、心を大きく動かす、ということです。実はそこに言語力はあまり必要ではありません。どの言語を使う場合でも、パブリックスピーキングのスキルの上達にフォーカスすることで、今あなたが持っている言語力のままで、異文化の人相手でも、格段に伝わりやすいスピーチを実現することができるのです。それこそが、グローバル・パブリックスピーキングです。

本コラムでは、グローバル・パブリックスピーキングのコツをご紹介していきます。

つい先日、在米日系企業の社長候補面接、そして在日本グローバル企業への転職面接の方々の個人コーチングをさせていただく機会がありました。

これはメディア対応の際や、営業プレゼンなどの時にもいえることですが、インタビューほか、とっさの質問への回答を成功させるカギは、MECEに想定される質問とその回答を準備しておくことです。MECEとは、Mutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの略で、「漏れなく、重なりなく」あらゆるオプションを考えるという、ロジカル思考の基本です。

筆者はコンサルティング会社に勤めた経験がありますが、コンサルティング会社ではケース面接といって、「世界で生産されているテニスボールの数を推定せよ」「○○の製造メーカーで、新規事業に1億円の予算が与えられたらどのようにその予算を使うべきか」など、難解なケース問題が与えられ、即座に回答しなければならないのですが、こうした質問への回答に実は正解はなく、冷静に論理的に解を出すことができるか、というロジカル思考が求められます。通常の転職の場合であればこのような難問奇問は少ないと思いますが、それでも、不意打ちの質問に、動揺することなく、明確な回答を分かりやすく述べることのできる度胸と瞬発力は大いに必要です。

「型」を数パターン持っておく

そんな力を鍛えるには普段から練習を重ねることが大切ですが、そこで功を奏するのが、いくつかの「型」を持っておく、ということです。 例えば、PREP手法。これは、メインポイントを冒頭で明確に打ち出し、その理由や根拠を挙げた後に具体的な例を紹介し、再度メインポイントで締めくくる、という方法で、あらゆる種類の質問への答えに使える、汎用性の高いフレームワークです。例えば、「私の強みは○○です。なぜなら△△だからです。例えば□□のようなことがありました。ですから私の強みは○○です」といった具合です。

また、Then-Now-How手法では、過去(Then)と現在(Now)の対比をまず出し、その間どうやって(How)現在にたどり着いたのか、に対する興味を高め、効果的なストーリー作りを実現できます。例えば、「入社2年目の時、一番大きなアカウントを失うという大きな失敗をしました。しかし現在は営業成績ナンバーワンです。なぜそれを達成できたかというと、○○を身につけたからです」といった具合です。

このように、想定される質問をできるだけ多くMECEに考え、回答をいくつかのパターンに分けて型に沿って準備しておくと、想定外の質問だったとしても、応用を利かせて対応できることでしょう。とっさのインタビュー質問の際には、質問を聞いたら瞬時に、「この質問はどのパターンに当てはまるか」を判断する、瞬発的な思考整理能力を鍛えておくことがカギとなるのです。

PARTSで印象を決める

さらに、相手に強い印象を与えるための戦略的小技がいくつかあります。
・Phrase
・Anchor
・Reflection
・Technique
・Sell

【Phrase】 自分自身の強みを最大限かつユニークに伝えられる、キャッチフレーズを持っておきましょう。筆者の場合、競技ラテンダンスの選手をしていたり、大学時代にはミュージカルをやっていたりした経験から、「歌って踊れるコンサルタント」という冠をつけて自己紹介をすると、後々までよく覚えていていただけるものです!

【Anchor】 「アンカー」とは、「碇(いかり)」という意味で、つまり、伝えたいメッセージを「碇を下ろす」ごとく、相手の心に焼き付けるための戦略的小技です。アンカーにもいくつかの手法があり、ストーリーを使ってメッセージを伝える、分かりやすいたとえ話を使う、覚えやすい頭文字や略語を使ってポイントを説明する、などがあります。このような手法でメッセージを「アンカリング」することで、相手への「伝わり度合い」はぐんと高まります。

【Reflection】 聞き手が、身近で具体的な場面を想像したり、わが身のことのように感じてもらったりするための手法が、Reflectionです。例えば、「○○で困った経験はありませんか?」「御社が△△に直面していると仮定しましょう」など、聞き手の状況や経験と重ね合わせることで、相手からの「共感力」をより深く引き出すことができます。

【Technique】 聞き手が、感じたり共感したりするだけではなく、なんらかのアクションを起こしてもらうために、どんな工夫をすればよいのか、を考えます。例えば、「雇用してほしい」を目標とするならば、「推薦者のコンタクト情報を渡す」あるいは「自分の強みを最も端的に見てもらえる、プロジェクトのプレゼン資料を渡して目を通してもらう」などです。「あと一歩」を踏ませるための「行動力」を引き出す工夫がTechniqueです。

【Sell】 インタビューなどで達成したい目的は、あなたのメッセージ(例えば、私を雇用すべき!など)を「売り込む」ことです。そのためには、「私を雇用」したらあなたの会社はどう良くなるのか、相手へのベネフィットに注目したメッセージを明確に伝えることです。これをブレイクスルーでは、「結果フォーカス」と呼んでいます。つまり、「私のメッセージを取り入れたら」得られる結果、を相手の頭と心に焼き付けてあげることで、相手の「説得度合い」がぐんと高まります。

事例でなく、ストーリーを語る

これまでの自分の経験や業績を、単なる「事例紹介」として語るのではなんら面白みもなく、また、相手の心に響くものはありません。

重要な経験であればあるほど、そこからの学びや自己アピールをストーリーという形で伝えることがカギとなります。具体的にどんな状況だったのか、どのような苦悩があり、感情の変化があったのか、気づきのきっかけとなった人や事柄はなんだったのか、そこからどのように自分が変化し、何を学び取ったのか。ストーリーを通して、相手の心を揺さぶっていくことができれば、あなたのスピーチは大成功、といえるでしょう。