今あなたが、大切な人に電話をかけて大切なメッセージを伝えようとしている、と想像してください。ところが回線が不安定で電話が切れてしまい、何度もかけ直さなければいけなかったとしたらどうでしょう。

スピーチに置き換えてみましょう。世界一素晴らしい話の内容だったとしても、聞き手と心をつなぐこと(=コネクト)ができなければ、すべて台無しになってしまいます。でも、ちょっとしたコツを知り、ちょっと手直しするだけで、コネクションはぐんと深まります。

今回は、話し手が聞き手とコネクトできない原因とそれを回避する10のコツをご紹介します。

1. “オレ様”スピーチ

話し手は、自分の成功話を語りたいものです。しかし聞き手はどうでしょうか。もちろん成功の秘訣を聞きたいでしょうが、もし話し手が、自分の素晴らしい業績やスキル、経験ばかりにフォーカスした話をしてしまったらどうでしょう。聞き手はきっとこう感じるはずです。

「あの人は特別だから……。すごいから……(自分には無理)」

「話し手は雲の上の特別な存在なのだ」と感じてしまうと、聞き手の心は離れてしまいます。聞き手とコネクトするためには、成功話の前に、まず、自分の失敗談や苦悩、欠点、初めての体験などを話し、「自分自身も聞き手と同じような経験を経てきた」ことを感じさせるように心掛けましょう。

2. “原稿丸読み“スピーチ

なぜわざわざ、そこに人を集めてきて話をするのでしょうか。それはなんらかの心のつながりが大切だからです。原稿を読むだけなら誰にでもできます。さらに言うなら、印刷して配布すればいいだけの話です。原稿を丸読みするようなスピーチでは、聞き手は「時間の無駄」と感じてしまうことでしょう。話し手の「心」や「感情」、「情熱」がそこになければ、聞き手とのコネクション作りはあり得ません。原稿ばかりに頼らず、自分の言葉で、心をこめて、情緒的コネクションを大切にしてください。

3. “含まれている感”が感じられない

話し手が演台の後ろに立ったまま動かず、一方的に話し続ける……というスタイルもよく見かけますが、皆さんがもし観客だったらどう感じますか? 「聞かないといけない義務感」から仕方なく聞こう、という姿勢になりませんか? それではコネクションなど生まれようがありません。

聞き手も、「自分もこのスピーチの一部だ」と感じたい欲求が実は隠れているのです。「これは自分に関わることだ!」と感じたいのです。ですから、彼らをスピーチの中に含めてあげましょう。例えば彼らに質問をしたり、簡単なアクティビティーをしたり、彼らの反応を見ながら返してあげたりというようなことです。

4. エナジーレベルのミスマッチ

もし、静粛な場で突如、吉本芸人的お笑いを始めたらどうでしょう。あるいは盛り上がっている観客を前にして、厳粛なスピーチを始めたらどうでしょう。こんな極端な例は少ないとは思いますが、観客の空気感に合わせたオープニングは、想像以上に大事なコツです。このコラムでも何度もお話ししている7秒ー30秒ルールを覚えていますか? 最初の印象で全体のスピーチのトーンが決まります。まずスピーチの冒頭は、会場、観客の空気感に合わせましょう。一体感が生まれたところで、そこから聞き手をどんどん話し手のストーリーの世界に引き入れていくのです。

5. 目線の偏り

話し手が聞き手全体に目線を配ることが大切なのはご存じのとおりですが、緊張していたりなれていなかったりすると、同じところにばかり目線を配りがちになります。すると当然、目線が届かない部分にいる聞き手は疎外感を感じてしまいます。スピーチ全体を通して、満遍なく目線を配分するよう心がけましょう。

6. “他人事”スピーチ

聞き手にとって、自分自身を反映させられる内容だったかどうかで、コネクションの深さが決まります。ただの「他人事」として流されないよう、聞き手一人ひとりが自分自身の内省につながるように、メッセージを熟考し、効果的に問いかけるなどしていきましょう。

7. “金太郎飴“スピーチ

あなたの話は、あなたにしか語れないユニークなものでしょうか? トピックそのものは、ほかの話し手でも伝えられる内容かもしれないという場合もあるかもしれませんが、そんな時でも、「なぜ自分が話す必要があるのか」をじっくりと考え、自分にしか語れないオリジナリティーあるストーリーに変えていく力が必要です。オリジナリティーあふれるストーリーには、聞き手はおのずと引き込まれていくものです。

8. ネクストステップがいくつもある

スピーチの終わりに、聞き手に実行してもらいたいネクストステップを提示する場合、あなたはいくつのネクストステップを並べているでしょうか? 例えば、「詳しい情報は弊社のウェブサイトをご覧ください」「また、お手元に資料をお配りしているのでこちらもお目通しください」「2時からはブースでデモをやりますのぜひお越しください」「さらに○月○日には体験イベントをやりますのでそちらもお越しください」……などなど、伝えたいことはたくさんあります。しかしこれはNGです。

話し手は「オプションを与えている」と考えがちですが、聞き手にとっては「やるべきこと」がいくつも提示されると、混乱したり面倒になったり忘れてしまったりして、「どれもやらない」と言う結果を導きます。ネクストステップは、「1つ」に絞り込みましょう。

9. “ケーススタディー”型スピーチ

事実だけを伝えるのではなく、ストーリーとして情緒コネクションを高めましょう。これは何も、お涙頂戴ストーリーを作れというのではなく、その“ケース”の背景、関わった人々、その人々が経験した苦労やチャレンジ、どのように乗り越えて行ったのか、どんな変化や学びがあったのかなど、ストーリーの“9つのC”(詳しくはブレイクスルーのウェビナーや動画コンテンツをご参照ください。http://www.btspeaking.com)といった要素を組み込んでいくことで、単なる事実から、心がつながるストーリーに変化していきます。

10. “一方的”ストーリー

とはいえ、ストーリーを一方的に伝えれば良い訳ではありません。ストーリーとは、「伝える」ものではなく、「そこへ連れて行く」ものなのです。そのストーリーが起こった当時の場面に、聞き手を引き込んでいくのです。そのためには、登場人物のセリフや表情、反応、その場の情景描写などを語り、聞き手がその場面を想像できるようにしましょう。それが、聞き手と話し手がコネクトするストーリーテリングです。