先日、”Lady and the Champs”という、プロフェッショナル・スピーカーのためのパブリック・スピーキングのブートキャンプに参加してきました。Ladyとは、アメリカ在住のイギリス人で、全米プロスピーカー協会からHall of Fameの称号を受けているパトリシア・フリップ。

Champsとは、トーストマスターズの国際スピーチコンテスト世界チャンピオンに輝いた、マーク・ブラウン(1995年)、エド・テイト(2000年)、ダレン・ラクロイ(2001年)です。その他、人気コメディアンで、ユーモアスピーチのエキスパートであるケビン・バークや、オンライン・マーケティングのエキスパート、フォード・シークスが加わり、2日間にわたるワークショップが行われました。

スピーチ界の大御所たちから学ぶことが多かったのはもちろんのこと、このブートキャンプの特徴は、世界8カ国から120名強集まったプロスピーカーである参加者同士がディスカッションを行ったりフィードバックを行ったりしながら共に学び合う機会があることです。

今回は、筆者自身の復習も兼ねて、このブートキャンプから学んだことをピックアップして簡単にまとめてみたいと思います。

ダレン・ラクロイの 1-2-3の習慣

Old school needs new school, or you’ll be out of school.

このキャッチフレーズから始まったダレンのレクチャー。比較的年齢層が高いプロスピーカーたちが集まるなか、「古い人たちも新しいことを学ばないといけない」というメッセージが、ダレンらしい韻を踏んだキャッチフレーズに込められており、冒頭から参加者の気を引き締めます。

ダレンは、自分の目標、例えば、プロスピーカーとしての登壇で今年○○ドル稼ぐ、というような具体的な目標に向かうために、「1-2-3」の習慣をつけよう、と呼びかけ、ブートキャンプの間中、「あなたの1-2-3は何か?」を問いかけ、ブートキャンプ1週間後にも、「1-2-3を実践しているか?」と継続してフォローアップをしていました。

「1-2-3」とは、
●1日に1つのアクションを
●週に2回
●3週間
続けて行おう、というものです。

3週間、つまり21日間続いた習慣は、身につきやすいといわれています。自分で目標を立て、それをやり抜くことの大切さを強調していました。どんなに成功しているプロスピーカーでも、やはり日々の小さな努力の積み重ねがあっての成功なのだ、とあらためて感じさせられました。

パトリシア・フリップの“過去の経験”

今回のイベント名にもなっている、「Lady and the Champs」の「Lady」こと、パトリシア・フリップ。

イギリス人ながら、アメリカのスピーチ界の言わずと知れた大御所中の大御所、パトリシアは、その昔は男性専門のヘアスタイリストでした。兄のロバート・フリップは、音楽界で有名なギタリストであるため、著名人も多くパトリシアの元に散髪に通ったようです。

そんな彼女がプロスピーカーになり、スピーチを考える時に必ず行うことがあります。それは「自分の過去の経験を掘り起こしてくること」です。

スピーチの成功はストーリーにあります。そしてストーリーの成功は、自分自身の過去の経験に隠れている宝探しをすることから始まります。

パトリシアは「Experience is the greatest teacher.」と語り、自分自身の仕事の経験、個人的経験、会社、上司、部下、同僚、顧客、友人、家族、親戚……など、あらゆる接点を見つけ、「自分だけが語れるストーリー」を生み出していくことが、優れたスピーチの基礎を作る、と言っています。

そのためには、下記のような項目を紙に書き出していき、自分の過去の経験から何をメッセージとして伝えられるのか、考えてみるエクササイズを行うと効果的です:
・Once upon a time, I grew up in ______. My dad was ______. My mom was ______. They always told me ______.
・My turning points were ______.
・______ was my mentor and he/she taught me ______.
・My career was ______.
・What I learned from my bosses are ______.
・What I learned from my clients are ______.
・My influencers, friends, collaborators are ______.

マーク・ブラウンの“魚の三枚おろし”

筆者のスピーチコーチでもあり、1995年の世界チャンピオンであるマーク・ブラウンは、”魚の三枚おろし”に例えて、スクリプトの校正を重ねて無駄をそぎ落としていくことの重要さを伝えていました。

三枚おろしをするには、うろこを落とし、頭を落とし、尾ひれ・両ひれを落とし、そして大事な部分は落とさないようにしながら背骨ぎりぎりのところで匠の技でおろしていきます。余計な部分をそぎ落としたら、今度はスパイスですが、多すぎても少なすぎてもダメ。そして、自分がよい味と思っても、食べる人にとってよい味でなければいけない。そのバランスが重要です。

スピーチ原稿の校正プロセスも非常に似ています。大切なメッセージを残しながら、必要な部分・不必要な部分を判断してそぎ落としていく作業はそう簡単ではありません。しかし魚の三枚おろしも最初は難しくとも何度も繰り返していけばマスターすることができるように、原稿校正も、反復演習でマスターできるスキルです。

ではコンテンツのどの部分は残し、どの部分はそぎ落とすべきなのか? その作業をする際、何度も自分に問いかけたい質問は次のとおりです。

・Will it serve the audience? (聴衆のためになることか?)
・I like it, but will they? (自分は気に入っているが、聴衆はどうか?)
・Will it enhance characters? (それは登場人物を強化するか?)
・Will it advance my story? (それは自分のストーリーを進展させるか?)

ケビン・バークのユーモアの法則

ラスベガスで毎晩、ロングランのヒット・コメディーショーの舞台に立つケビン・バークからは、ユーモアの取り入れ方についてのレクチャーがありました。

ユーモアの構造は、次の3つで成り立っています:
・Premise:誰がどんな状況にいるのか
・Setup:期待感を高める
・Punch line:オチの台詞

この中でSetupとPunch lineにギャップがあればあるほど笑いが生まれます。

ギャップを笑いにつなげることは、「3つの法則」にもいえることです。つまり、3つの事柄を並列するのですが、1つ目と2つ目は同類の事柄、しかし3つ目は、同類の事柄が並列されると期待させておいて、逆の方向に向いて落とす、という手法です。「3つの法則」は、筆者をプロスピーカーに導いた師匠、クレッグ・バレンタインもよく使う手法ですが、彼のスピーチから例を挙げるとこんな感じです:
I said to myself …….
I wanted to be a professional speaker. I’m a professional speaker.
I wanted to marry a wonderful wife. I married a wonderful wife.
I wanted to own a white Mercedes Benz. I own a white …… Honda Accord. I’m getting there …….

最初の2つは、「昔願ったことが今かなっている」という法則が続くため、3つ目もそうかと思いきや(つまり今メルセデス・ベンツを持っている!と来ると思わせる)、逆パターンを持ってきてオチをつけて笑いを取っています。

スピーチ界の大御所たちからの「コツ」は、スピーチ以外にも使えるものがたくさんあります。皆さんも明日からぜひ実践してみてください!